中欧班列には主に「西」、「中」、「東」の3ルートがある。西ルートは中国西部の阿拉山口またはホルゴス国境を越えてカザフスタンに入り、広軌車両に積み替え、ロシア、ベラルーシを通過し、ベラルーシ・ポーランド国境で再度標準軌の車両に積み替えられて、欧州各国へと運ばれていく。中欧班列の中国⇔欧州トランジット輸送のうち、例年9割前後がカザフスタン領を経由する西ルートとなっている。
中欧班列のトランジット輸送のうち、カザフスタン~ロシア~ベラルーシという西ルートの輸送を一手に担っているのが、ユーラシア鉄道アライアンス(ERA)社である。14年に設立された前身企業が、18年に改組されてできたのが現在のERAである。ERAは、ロシア鉄道、ベラルーシ鉄道、カザフスタン鉄道が3分の1ずつを対等出資することで設立されている。
ウクライナ侵攻で急ブレーキ
中国当局と公式マスコミは、運行・輸送総量の拡大を誇示し、中欧班列が順調な発展を遂げていることを強調するのが常である。だが現実には、22年2月24日にロシアがウクライナへの全面軍事侵攻を開始して以降、中欧班列にも異変が生じている。
上述のとおり、中欧班列による中国⇔欧州間輸送の大部分は、カザフスタン~ロシア~ベラルーシ領を通過する。ロシアは欧米から厳しい制裁を科され、またロシアと同盟関係にあるベラルーシも欧州連合(EU)との対立をエスカレートさせており、このことは当然、中欧班列にも否定的な影響を及ぼしている。
もっとも、24年10月現在に至るまで、EUは中欧班列を含め、ロシアおよびベラルーシの鉄道を経由した貨物のトランジット輸送を直接的に制裁の対象にはしていない。23年2月25日に決定されたEUの第10次制裁パッケージの一環として、軍事転用可能な汎用品をEUからロシア領を通じて第三国に輸出することが禁止されており、影響が生じうる法規制はその程度だ。
それでも、他の輸送部門を見ると、航空分野では、22年2月の侵攻直後から、EUとロシアがお互いの航空機の自国領空飛行を禁止している。同年4月には、EUがロシア・ベラルーシに登録されたトラックのEU圏入域を禁止する措置をとった。
侵略国ロシアと、その同盟国ベラルーシを経由するコンテナ鉄道輸送に、荷主がリスクを感じ取り、顧客離れが起きるのは当然の成り行きであろう。実際、ヒューレット・パッカード(HP)やDell(デル)といった欧州の大手企業が侵攻後ほどなくして、中欧班列利用の予約キャンセルに動いたとされる。
それでは、ウクライナ侵攻後に生じた欧州の顧客離れにもかかわらず、図1に見るように、中欧班列が成長を続けているのはなぜか。それは中国鉄道が、中国⇔欧州間のトランジット輸送だけでなく、中国⇔ユーラシア諸国(カザフスタン・ロシア・ベラルーシ)間の輸送も中欧班列の実績にカウントしているからである。
図2に見るとおり、中欧班列のうち前出のERAが輸送を担当した分のデータを整理すると、過去2年、中国⇔欧州のトランジット輸送が急減し、代わって「その他」が拡大していることが確認できる。「その他」の大部分は中国⇔ロシア間の輸送と考えられ、ロシアがウクライナ侵攻後に中国への傾斜を深めていることを反映して、この部分が大幅に増加していると見て間違いない。