2024年11月21日(木)

令和のクマ騒動が人間に問うていること

2024年11月21日

一頭のクマに起きた悲劇
痛感した「教育」の大切さ

 別のポイントに向かっている途中、車の中に搭載していた受信機が急に大きな音を鳴らし始めた。

 「近くにいるようですね」

関さんのヘッドライトの明かりだけが周囲を照らしていた

 車から降りた関さんがアンテナを振る。「ピッピッ」という受信機の音がさらに大きく聞こえる。

 「ここから200~300メートル先くらいに『ニコパ』がいますね。258番目に捕獲されたクマです。この先には沢があるのですが、昨晩もそこで過ごしていました。ニコパも私たちの存在を敏感に察知していることでしょう。『また、来たか』とね」

 現場は多少の月明かりこそあるものの、周囲は闇に包まれている。200~300メートルとはいえ、ニコパが走ってきたらどうするのか、考えただけでも恐ろしかった。

 「私も最初はとても怖かったですよ。でも、クマに対する理解が深まったことで、多少は恐怖が和らぎました」

クマがごみを漁らないよう、専用のごみ箱も開発してきた

 取材中、関さんから人間とクマとの悲しい出来事を聞いた。

 「かつて『ジョイ』というクマがいました。ジョイは軽井沢町内をよく動き回るクマでしたが、昼間には目撃されず、ごみを漁ることもないクマでした。でも、正しい知識のない方が、バターを塗ったパンをジョイに与えてしまったことで、悲劇が起こりました」

 餌付いたジョイは「人間に近づけば美味しいものがもらえる」と覚えてしまい、人間との接触リスクが格段に跳ね上がった。最終的に、ジョイは捕殺された。関さんは言う。

 「苦渋の決断でした。その方には何度も餌付けをしないようお願いしていたんですが……。なぜ未然に防げなかったのか、悔やんでも悔やみきれません。私は元教員ですが、教員をしていた時よりも、『教育が大事』だと、最近つくづく感じています。

 事故のない状態を維持することは本当に大変なことです。何かが起きてしまえば、一気に信頼を失いますから。年々、クマに対する目が厳しくなっている分、さらに身を引き締めてこの町を守り続けます」

 教員の世界から転職して3年半。クマへの温かい眼差しを持つ関さんは、友人たちから「今、何をしているのか?」と問われたら、「目の下に〝クマ〟をつくりながらクマを追いかけているよ」と冗談を言うこともあるという。一方で、軽井沢の安全は自分たちが守っていくという、プロフェッショナルとしての確かな矜持があった。

 

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Wedge 2024年12月号より
令和のクマ騒動が人間に問うていること
令和のクマ騒動が人間に問うていること

全国でクマの出没が相次ぎ、メディアの報道も過熱している。 しかし、クマが出没する根本的な原因を見落としていないだろうか。人間はいかに自然と向き合い、野生動物とどう生きていくべきか。人口減少社会を迎える中、我々に必要とされる新たな観点を示す。


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