2025年3月17日(月)

Wedge REPORT

2025年2月13日

 だが、処分の是非について絞って結論を言ってしまえば、コンプライアンスが重視される現代では至極当然であり議論の余地はない。むしろ生徒から集めた給食費で購入した食材を勝手に使い込んだわけであり、一部のSNSコメントでも指摘されている通り窃盗、横領などの刑法違反と言えなくもないだろう。ましてこれは数年間にわたって行われたということなので、管理職が知らなかったはずもなく、その管理責任は重い。

 しかし、である。学校給食の抱える問題は、世間が思っているよりも大きく、かつ、多岐に渡る。筆者にはこの調理員が自分たちの取った行動に全く非がないと思っていたとは思えない。わざわざ自宅から食材も持ってきてまで教員に賄い料理を提供した彼女たちに悪意があったとも思えない。ならば非は非としてとらえ、一方で日本の学校給食の実情をもう少しよく考える必要があるのではないか。

給食指導で教員は昼休みもない

 日本における給食は、戦後の食糧不足や栄養失調問題などにより1947年に導入された。現在、全国的に見ると完全給食を行っていない市町村もいくつかはあるが、学校給食法によりほとんどの公立小中学校で給食を提供している。

 過去に遡ると1992年(平成4年)に埼玉県庄和町(現在の春日部市)が学校給食の廃止を提案し、これにPTAが大反対して全国的に大きな社会問題となったことがある。結局は町教育長の急死により廃止は取り下げられたのだが、これが実現していれば学校の働き方は大きく変わっていたかもしれない。教員にとって給食指導は泣きたくなるくらい大変な仕事なのである。

 給食は法で規定されているものであり、当然のことながらその指導はずっと教員がお昼の時間に行って来た。つまり、労働基準法により保障されている休憩時間が教員には無いのである。

 法律上それではまずいので、多くの学校では担任と担任外で分けて休憩を取っていることにしていたりするが、それは形式的なことであり実際には休憩時間など取れはしない。しかも、ただ休憩できないだけではない。現代では食品アレルギーで命に関わる事案も起きており、休憩時間に働いているにもかかわらず訴えられることもある。

 例えば1988年に札幌市立の小学校において、6年生の生徒が給食に起因してそばアレルギーを発症し、ぜんそく発作によって異物を誤飲して窒息死するという事故が起こった。この事例の場合、教師は食べないように指示したが生徒が食べてしまったことが発端となっている。

 また、保護者は学校から代替食持参の指示にも従っていなかった。それでも裁判所は札幌市に多額の損害賠償を命じている。(学校給食における食物アレルギー事故|学校側の法的責任とは?|ベリーベスト法律事務所

 このようなことから、各学校ではアレルギー対応を余儀なくされ、全職員が万が一のためのエピペン講習、心肺蘇生法講習を課せられている。また、担任や学年職員は児童生徒一人ひとりのアレルギー食品やその対応を覚えなくてはならない。

 それだけではない。アレルギー対応として児童生徒が家庭から持ってくる代替食を預かり冷蔵庫に保存し、給食時に配るという作業も行わなければならない。間違えたら命に関わるから、名札をつけて確実に本人に渡さねばならず慎重を期さねばならない作業だ。


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