2025年3月13日(木)

Wedge REPORT

2025年3月13日

府職員から民族植物学の研究、旅行会社…

 宿を経営するのは前田知里さん。株式会社cofuiaの共同代表だ。この宿を開業するきっかけは「古墳をもらっちゃった」からだという。

cofuiaの前に立つ前田知里さん

 古墳が民間人の所有と聞けば驚く人もいるだろうが、実は全国に16万はある古墳の大半は民有地にある。奈良県でも天皇陵など宮内庁が「陵墓」に指定した古墳以外は、たいてい民間の所有。古墳の墳丘が田畑や果樹園となり、建築物が建つ場合も少なくない。なかには地元の共同墓地になっていて墳丘に墓石が立ち並ぶケースもある。

 西山塚古墳も4人の所有者がいるが、その敷地内にある古民家部分を前田さんは受け継いだ。墳丘は農地扱いのため譲渡が難しく、委託契約を結んで自由に使えることになっている。

 6世紀前半の築造と推定され、継体天皇皇后の手白香皇女の真陵だとする説もあるが、まだ未発掘。ただ戦前に埴輪のほか玉や土器などが出土した記録があった。墳丘部分は、柿の果樹園のほか、茶畑や野菜畑だった時期もあるようだが、高齢化が進んで耕作されなくなっていた。それでも地元の人は草刈りなどの管理を続けてきたが、今ではそれも難しくなってきたため、前田さんが受け継いだ時は藪に覆われた状態だった。

 ここで前田さんの歩みを簡単に紹介したい。出身は京都府南部で、神戸大学の国際文化学部で学び京都府に就職。丹後半島の伊根町で地域おこしを担当したが、一念発起してオランダのワーヘニンゲン大学に留学した。

 そこで取り組んだのが民族植物学である。主に少数民族の世界に残る伝統農法や薬草利用などをテーマに、在学中から南インドやブータン、中国ウイグル自治区、タイ、ラオス、ベトナム、台湾……とアジアの山岳民族を訪ねて歩いたという。

 帰国後は、外資系の旅行会社に勤めて訪日外国人に日本の伝統工芸や文化を楽しんでもらう企画に取り組み、その後独立して自らフードツーリズムを専門とする旅行会社を設立する。外国人を案内し日本の伝統食などを体験してもらうのだが、そこでよく訪れたのが山辺の道だ。“日本の原風景”は、外国人にとても人気だった。

 前田さん自身も、天理市の古民家に転居した。そこで地元の人々と交わる過程で言われたのが「古墳をもらってくれないか」だったのだ。


新着記事

»もっと見る