2025年12月6日(土)

日本人なら知っておきたい近現代史の焦点

2025年11月11日

マムダニとクオモの異なるスタンス

 この2人の候補者のバックグラウンドは大きく異なっている。片方が移民で無名の、経験の浅い州議会議員なりたての34歳、他方はニューヨーク州知事を3期もつとめた大物州知事を父に持ち、本人もクリントン政権において閣僚を務め、州検事総長を経て州知事を10年務めた67歳の大物である。

 2人のスタイルを象徴する出来事がある。選挙期間中、地元チームのバスケットボールをマムダニもクオモも観戦したが、マムダニが後方の安い席で、地元の人々と交流しながら観戦したのに対し、クオモは汚職スキャンダルにまみれたアダムズ市長と共にコートサイドの特等席で観戦したのである。

 もちろんマムダニが貧しい移民でないことは皆が知っている。父親はコロンビア大学の教授であり、母親は有名な映画監督であって、本人も恵まれていたと認めている。ただ、どちらが恵まれない市民に寄り添っているかは明らかであった。

 トランプ大統領は、民主党のライジングスターであるマムダニを目の敵にして攻撃した。マムダニを共産主義者と非難し、そのような人物を当選させると、米国を「共産主義のキューバや社会主義のベネズエラのようにしてしまうだろう」と述べた。そして、あろうことか、選挙戦終盤には、自身の属する共和党の候補ではなく、民主党に属するクオモ支持を表明したのである。

 第一次世界大戦後の赤狩りや第二次世界大戦後のマッカーシズムをみても明らかなように、米国は歴史的に共産主義や社会主義を毛嫌いしてきた。特に冷戦期には、ソ連との対抗上、政府が国を挙げて国民の間にその恐怖を煽ってきた。それによって醸成された恐怖心は根強く、これまで多くの民主党左派の候補がそのために落選してきた。

 大統領に共産主義者のレッテルを張られるなど目の敵にされた無名で政治経験も浅いイスラム系の移民である候補が、大富豪たちの寄付をふんだんに受けた名門政治一家の前州知事を相手に、本選挙で過半数の得票を得て当選を勝ち取ることが出来たのはなぜだろうか。

マイナスにならなくなったイスラム系と「共産主義者」

 イスラム系という点から見ていきたい。同時多発テロの直後であればイスラム系の市長の誕生は考えられなかったであろう。テロ直後にはイスラム教の施設やイスラム教徒へのヘイトが各所で見られた。

 あれから24年の月日が流れた。その間、イスラム系の移民は良き隣人として米国社会で暮らしていけることを示してきた。また、イスラエルのガザ侵攻によってユダヤ系とイスラム系に対する風向きが変わったこともあろう。イスラエルを非難しパレスティナを支持する世論の盛り上がりによって、イスラム系であることが以前ほどマイナスとならなくなっていたのである。

 これまで米国で多くの政治家を失脚させてきた共産主義というレッテルはどうだろか。「マムダニは共産主義者だ」というトランプの脅しは今回の選挙では通用しなかった。マムダニ自身が自らを民主社会主義者と公言していたにも関わらずである。


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