2025年12月6日(土)

日本人なら知っておきたい近現代史の焦点

2025年11月11日

 これまで、民主党のプロの政治家がかわるがわる現れ、選挙期間だけ甘言を弄して当選していったが、何も変わらなかった。それなら、イスラム系かもしれないし、経験がないかもしれないが、この若者に賭けてみようと思ったのではないだろうか。だめでもともと、どうせほかの人なら100%変わらない、特にクオモ王朝とまで言われたクオモ家出身の元州知事には庶民の痛みはわからないと考えたのではないだろうか。

危険な領域に達しつつある米国の格差

 それではこの選挙結果は将来に向けて何を意味しているのだろうか。注目したいのは、セクハラスキャンダルで知事を辞任し、政治家としてもはや死に体といっていいクオモに41.6%もの票が入っていることである。

 これは「マムダニは嫌だ」という有権者の意思表示に他ならない。何が嫌かは、イスラム系が嫌、移民が嫌、自分の所有する物件の不動産価格が下がるのが嫌、自分の税金が低所得者のために使われるのが嫌など人によるだろう。

 ここには民主党の分断が見えている。これまで移民や低所得者には全体的に優しい一方で、富豪にもそれほど厳しくもないという形でなんとなくふんわりとまとまっていた民主党であるが、マムダニの当選によって党内の分断が急速に進むことになるかもしれない。

 7月にトランプが「美しい法案」と呼んだ減税法案が通過した。あまりにいろいろなものが詰め込まれ過ぎて、その正確な影響についてはいまだにわかっていないが、ある試算によると、最も貧しい層はそもそもほどんど納税していないために、この法律による控除が使えずにトータルで損をして、最も豊かな層が大きく得をし、中間層の多くは損も得もしないというのが大体のところのようである。また、この減税の費用を賄うのは、多くの部分が低所得者向けの健康保険の縮小によるというのである。

 これではまるで貧困ビジネスのようにも見えなくもない。損もしなければ得もしない中間層が無関心になっていてこの法案は通ってしまった。

 今回は、中間層が低所得者側についてマムダニが勝利したのかもしれないし、普通の中間層も低所得者のような暮らししかできない今のニューヨークの現状を表しているのかもしれない。いずれにせよ物価高による生活苦と格差の問題は危険な領域に達しつつある。

民主党にも起きる「分断」

 トランプとマムダニの2人は対照的に見えるかもしれないが、ニューヨークで生活に苦しむ人々がマムダニに熱狂する様相は、ラストベルトで喘いでいた人々が、これまでのプロの政治家に権力をゆだね続けても何も変わらなかったが、トランプなら何かを変えてくれるのではないかとトランプに惹きつけられたのに似ている。同じように都市部の見放された人々は今回マムダニに賭けてみたのではないだろうか。

 2人がそれぞれの党を分断させているところも似ている。トランプの登場により共和党が大きく偏り、ここにきて民主党も分断の兆候を見せている。これまで米国を安定させてきた中道寄りの民主共和両党が重なっている部分がますます細ってきている。今回のニューヨーク市長選挙は、分断が進んで危険度を増す米国の近未来の里程標なのかもしれない。

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