2025年12月6日(土)

日本人なら知っておきたい近現代史の焦点

2025年11月11日

 とくにそれは若い世代に影響しなかった。ABC放送の出口調査では、30歳未満の8割近くがマムダニ候補に投票していることが示された。この結果は、冷戦終結後に生まれた世代には、これまでのように共産主義の恐怖は浸透しておらず、それを煽っても以前のようには響かないということを示しているのではないだろうか。

 ただ、なによりも重要なのはマムダニが掲げた政策の基本である物価高対策を中心とした生活支援であった。近年の米国では物価上昇が著しいが、中でもニューヨークやサンフランシスコといった大都市部では、食料品などの急激な価格上昇に加えて、家賃の上昇が度を越している。ニューヨーク市内のワンベッドルームのアパートの家賃の中央値はおよそ月60万円というデータもあるくらいである。

 そこでマムダニは、公共バスの無料化、一部の賃貸住宅の賃料凍結、市営の食料品店の設置など、物価高に苦しむ人々を助ける公約を掲げた。この公約は生活に苦しむ人々の心に響いた。また、同じく社会民主主義的考えを持つバーニー・サンダース上院議員やニューヨーク州選出のアレクサンドリア・オカシオ=コルテス下院議員といった著名な連邦議会議員からの支持を受けたのは大きかった。

マムダニの選挙戦略

 ラッパーとして活動していたこともあるマムダニ候補は、SNSの使用にもたけていた。家賃凍結公約を浸透させるために、「凍えそうだ」と言いながらニューヨークの古くからある遊園地が面した冬の海に飛びこむ映像をはじめとして、短くて刺激的な映像を投稿した。また、世界中からの移民であふれるニューヨーク市の特徴に鑑み、英語だけでなく、スペイン語はもとよりヒンディー語やウルドゥー語といった様々な言語を用いてSNSで有権者に呼びかけていた。

マムダニ氏は動画も活用し、英語以外の言語でも精力的に発信した(同氏Xより)

 SNSに加えてマムダニ選対は、10万人以上のボランティアが参加しての戸別訪問などのいわゆるドブ板選挙を展開してもいた。行き過ぎた資本主義に苦しみ、マムダニの社会民主主義的な考えに救いを求める若者や、自分は恵まれていても今のような社会はおかしいと考える若者が多く参加したのである。

 トランプ政権下で移民に逆風が吹く中、マムダニは自らが移民であることを隠しもせずむしろ強調した。勝利演説において、自分を支持してくれた、「これまでの政治によって忘れ去られてきた人々」に感謝を表明すると述べて次のように列挙した。

 「イエメンの食料品店主、メキシコのおばあちゃんたち。セネガルのタクシー運転手やウズベキスタンの看護師。トリニダード・トバゴの調理人、そしてエチオピアのおばさんたち」そして、「ニューヨークはこれからも移民の街であり続ける。移民によって築かれ、移民によって支えられ、そして今夜からは移民によって率いられる街だ」と喝破して喝采を浴びた。

 むろん、マムダニが当選したからといって公約がすぐにすべて実現すると信じるほど彼に投票した人たちはナイーブではないだろう。予算をひねり出すには議会や州の同意が必要で、市長が一人で決められる話ではない。その一方で、マムダニ以外が当選しても庶民のために何かが変わる可能性もないということもわかっていたはずである。


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