2025年12月30日(火)

世界の記述

2025年12月30日

「規範」重視の欧州、脆弱な交渉力

 中国の対欧輸出超過の要因の一つは、「クォータ(輸入枠)」や関税措置による欧州側の対応が遅れたことがあった。それは自由貿易を「規範」として重視する欧州の基本姿勢の反映でもあった。12月4日、マクロン大統領は習近平国家主席との会談で、両国間の貿易関係是正のための「相互投資」を呼びかけ、G7との協調による「ルールに基づく」経済ガバナンスを強調した。

 他方で一連の中国の輸出超過の背景にあるのが、中国の多額の国家補助金の存在だ。これをEUは「自由貿易の規範」順守の立場から批判する。

 しかし、そうした規範外交には限界がある。第一に、欧州は自由貿易擁護の原則を順守しており、それが対応の「甘さ」や「理想主義」とつながっている。第二に、米国とは異なり、欧州は力による対決を選択しない。そして第三に、欧州は内部で分裂していることだ。その典型が、中国製電気自動車に対する関税措置をめぐる議論である。フランスは厳格な参入障壁を主張したが、輸出をアジア市場に大きく依存するドイツは強く反対した。

 今回も、フランスはウィグル自治区での中国政府のイスラム教徒弾圧を批判したが、それが両国関係の決定要因とはなっていない。天安門事件による関係の断絶は永続的なものとはならなかった。

 1990年代のアジア欧州会議(ASEM)成立に際しても、中国の人権問題は大きな懸案課題であったが、その時も結局、欧州は中国の広大な市場への進出の方に重きを置いた。先に述べたように欧州は中国・アジアには「ステーク・ホルダー」的なコミットしかできない。 

 他方で、中国はこうしたEUに対して冷静な姿勢を失っていない。今やロシア経済を支え、ウクライナ戦争遂行の一翼を担うまでになっている中国は、その存在感は一層増している。

 例えば昨年10月末にEUが決定した中国製電気自動車に対する「相殺関税(補助金相殺税)」導入に中国は強く反発している。EUは中国からのバッテリー電気自動車(BEV)に対して既存の輸入税(約10%)に加え、補助金相殺関税の上乗せを決定、最大で約35%以上(合計で約45%超)を増課税したからだ。また中国はブラジルやインドとともにトランプ政権の「相互関税」に反発しているが、25年7月にあっさり受け入れたEUの姿勢も非難している。


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