2025年12月30日(火)

世界の記述

2025年12月30日

ジレンマの中の我慢強い「見識外交」

 フランスや欧州が中露を動かすだけでの力があるのか否か。難しい道だ。

 しかし筆者は思う。その背景にはグローバルな視野からの発想がある。それは見識であり、だからこそ軍事力がなくとも世界で議論を戦わせることができる。筆者が日本外交に期待するのはそのことだ。

 自国のみでは実現できないことを承知の上で対中強硬姿勢を演出するのは、いかにも米国頼みであることを露呈しただけだ。掛け声の勢いはよくとも足元を見透かされても仕方がない。その後の中国の対応も「いつもながら」という感慨を禁じえない。

 それでは日本は自主防衛強化の道を走るべきか。しかしそれには、周辺諸国ばかりか、米国ですらそれを警戒するであろう。

 日本の「力の平和」には限界がある。直近の世論調査では、高市政権の対中強硬姿勢の支持率は過半数を超える。しかし果たしてその姿勢が真の日本の外交交渉力となっているのか。日本国内の議論で世界は動くのか。筆者の危惧はそこにある。

 世界の現実は多極化の中での均衡外交の時代に移行している。12月に公開された米国の「国家安全保障戦略」は米国の西半球重視と欧州離れ、そして文章化はされていなかったものの、(日本も含む)米国と中露印の大国間外交による安定を目指した世界観が示されていた。

 米中対立を前提にした高市首相の台湾有事での自衛隊の積極的関与を示唆する発言は、話しの落としどころを失いかけている。広い視野からの見識に欠けた日本外交を露呈させることにもなりかねない事態に陥っている。すでに12月19日に米国のルビオ国務長官は「日中双方と両立する関係」を維持したいと表明、日中対立の打開策として、米国がむしろ日中関係の調停にもならんばかりの発言だ。米中対立の仲介者となるべき日本外交の地政学的立ち位置は見失われようとしている。攻守所を変えれば、立場が逆転した格好だ。

 米中露の三国が角逐を続け、「力による平和」を志向する限り、その谷間に位置する日本外交には研ぎ澄まされたバランス感覚は不可欠だ。それは地政学的視野からの必然である。

 米国と中露(ソ)のパワーポリティックスが大きく米国に傾いていた冷戦時代と世紀末までの事態とはアジア国際情勢もグローバルな国際情勢も大きく変容している。高市政権になって防衛論議が拍車をかけそうな勢いだが、今、日本外交に必要なのはイラク戦争の議論の中で米国一辺倒に奔った日本外交論争の立て直しだ。それは筆者の言葉でいえば「見識外交」の樹立だ。

 広い視野からの我慢強く、したたかな外交を期待したい。それこそ真の「リアリズム」ではないか。

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