2026年5月20日(水)

日本の農業論にモノ申す

2026年5月20日

 人件費が日本より高いハワイでも、「普及員の待遇は良いので、人手不足にはならない」とジェンセンさんは話す。ハワイの普及員は20歳代から50歳代まで各年代に満遍なく人員を確保できているという。

 また、スミス・レバー法という農業普及に関する連邦法に基づいて活動しており、政権交代などによる急な政策の転換がなされても影響は少ないそうだ。

 このように、ハワイの普及員は、大学と現場をつなぐ「技術的伝道者」としての役割を担い、社会的にも高い評価と十分な待遇を受けていることが窺える。

日本の現状と深刻な課題:政策のジレンマと後継者不足

 日本の普及指導員は都道府県の職員として、行政施策を現場に浸透させる役割も期待されている。近年、政府は「スマート農業」などを政策的に推進しており、普及現場でもその導入支援が求められている。

 しかし、自動運転トラクターや自動運転コンバインといった高価な農業機械の導入は、主として、大規模農家向けの技術だ。多数を占める中小規模農家にとってはこのような技術導入が過大な経営負担となり、現実的でないことも多い。

 現場の普及指導員は、政策として高度なスマート農業などを普及させなければならない一方で、それが大多数を占める中小農家の実情にそぐわないというジレンマを抱えながら、普及活動にあたっているケースも少なくない。ハワイのように、ホームセンターなどで手に入る器具を使った装置の方が適していることも多いのだ。

 事実、日本各地で安価なスマート機器を導入する事例も増えている。その例が北海道の農業改良普及センターで進める施設栽培における自作環境制御技術導入だ。

普及センター職員に谷村専門普及指導員(右)が自作制御装置の作成を説明する(北海道庁提供)

 今まで農家の勘に頼っていた栽培管理を自動化し、データを「見える化」する試みである。この事例を中核で担っているのが、若手の専門普及指導員の谷村健太さんで、このような若手普及指導員の活動は全国で増えてきている。

 しかし、日本の場合、現実の人材の危機は深刻だ。普及指導員の人材構成は50歳代以上と20歳代に偏りがある。その背景には、都道府県が財政悪化の中で全国的に長年採用を抑えてきたため、30歳代から40歳代の中堅世代が極端に少なくなっているという事情がある。

 日本の農業従事者の平均年齢は68歳前後で、65歳以上が7割近くを占めるに至っている(2025年農林業センサス確定値)。今後5年程度で、これらの高齢農業者の多くが現場を離れる可能性が高い。将来的に農業技術の断絶と大規模な後継者不足が危惧される。


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