今、若者をはじめ他業種から農業に参入する人もいるものの、知識や経験不足から失敗も多く、断念してしまうケースも散見される。こうした事態を避けるために普及指導員による技術や経営における支援が必要となる。しかし、昨今の人材不足の中、民間企業の待遇などが改善しているため、民間企業へと人材が流出し、以前に比べて普及指導員のなり手が減少する事態を招いている。
食料安保確保へ、公的普及事業の再評価と強化を
中東情勢などを背景に食料安全保障が叫ばれる今、農業技術を次世代に継承することは喫緊の課題である。前述のとおり、その鍵を握るのは、農家を技術的に支援する普及指導員である。しかし、その普及指導員自体もベテラン層の大量退職とともに継続的な技術伝承が困難になりつつある。
そこで、今後、普及事業の再強化のため、以下の点が重視されるべきだ。
第一に、ハワイの事例が示すように、普及事業の本来の使命は、政策に大きく左右されることなく、あくまで「農家目線」に立ち、技術的に経営を支援することにある。このことを政府、農業関係者も再確認すべきだ。
第二に、生成AIなど最新技術を導入した普及活動の実施である。日本では生成AIは、データの正確性など課題が強調される傾向がある。しかし、ハワイでファクトチェックを前提に生成AIを利用しているように、日本でもデータの活用方法などをルール化してリスクをできる限り排除し、生成AIを普及活動で利用すべきだ。また、ベテラン普及指導員のノウハウをデータとして蓄積すれば、それを生成AIに学習させることも可能になる。
第三に、日本においても、普及指導員が持つ役割と実績を正当に再評価し、高度な専門性を発揮できる環境と体制を再構築する必要がある。普及指導員の待遇の改善も欠かせない。
高齢農業者とベテラン普及指導員の引退による技術断絶を防ぎ、日本の食料供給能力を維持・強化するためには、公的普及事業の抜本的な強化が不可欠である。普及指導員は、単なる「農業指導者」ではない。日本の食料供給と農村を支える“技術の継承者”なのである。
先述の北海道の事例のような若手普及指導員の活動の芽生えが各地で見られる。こうした動きを支えることが、日本農業の未来につながる。このことを国民も認識し、政府の積極的な支援を後押しする必要がある。
