2026年5月21日(木)

プーチンのロシア

2026年5月21日

 22年当初は、「特別軍事作戦」はどこか限定的・遠隔的に語られていた。それが、現在では学校教育、愛国イベント、退役軍人支援、地方リーダーの発信など、国家儀礼の内部に組み込まれつつあると言われる。今年の5月9日からは、その制度化・儀礼化がかなり進んだことが見て取れた。

勝利をすり替えようとするクレムリン

 ところで、ロシアに関する最新の動きで、個人的に一番興味を引かれたのが、「ドシヨ・センター」というネットメディアに掲載された情報であった。ドシヨ・センターは、ロシアの反体制派実業家ミハイル・ホドルコフスキー系の調査報道プロジェクトで、ロシア政権や治安機関、軍事会社、政商ネットワークなどに関する内部資料やリーク情報をもとに、独自調査を行っている。クレムリン内幕や対外工作、腐敗問題を扱う報道で知られ、欧米メディアに引用されることも多い一方、ロシア当局からは敵視されている。

 そのドシヨ・センターが5月7日に、「超愛国派の『感情的な履き替え』:大統領府は、戦争終結をいかに国民に『売り込む』かを考え始めた」と題する記事を掲載した。ロシア大統領府が、ウクライナでの戦争を終結させるシナリオを検討したレポートを作成し、ドシヨ・センターが関係筋から同レポートを入手したということである。

 このレポートで注目すべきは、ロシア側がすでに「完全勝利」よりも、「勝利と見なせる形での着地」を真剣に考え始めている点である。そこには、現在のロシア国内の疲労感や、国家運営上の制約がかなり率直に反映されている。

 レポート全体を貫く論理は、次のような3つの柱であるということだ。①「ロシアは勝った」という物語を維持する。②しかし、戦争継続は危険なので、止めることにする。③社会を「平時モード」へ軟着陸させる。

 戦争継続による危険としては、経済疲弊、資源枯渇、インフレ、増税、社会支出削減、動員リスク、ドローン・テロの常態化、人口問題、国際的地位低下などが挙げられている。しかも、「ロシアには未来のための人間が必要であり、それは移民ではない」という記述もある。これはまさに現下ロシアが抱える人口問題・労働力問題への危機感そのものである。

 レポートでもう一点興味深いのは、北極・シベリア・極東開発のために、これ以上ウクライナ戦争に人的・財政的資源を吸われるべきではないという発想が見られることである。戦争継続がロシアの長期国家戦略を阻害しているという認識が示されている。つまり、ウクライナで消耗し続けるより、「獲るものは獲った」として、次の国家建設フェーズへ移るべきだというロジックになっている。

 また、このレポートの極めて重要な点は、「勝利」の定義を書き換えようとしている点である。つまり、少なくともこのレポートの作成者は、キーウ占領はない、「降伏文書」もない、「非ナチ化」は象徴的なものになる、ゼレンスキー大統領は残る可能性が高い、合意は妥協的なものになると明確に認識している。言い換えれば、超強硬派が期待していた、キーウ陥落、政権転覆、完全軍事勝利は現実的でないと認めているわけである。


新着記事

»もっと見る