2026年5月21日(木)

プーチンのロシア

2026年5月21日

 その代わりに、ドンバス、クリミア防衛、クリミアに至る陸路の確保、ウクライナの北大西洋条約機構(NATO)加盟阻止、「西側に勝った」という象徴、ロシアの主権維持、制裁耐久の発揮、ロシア国家の崩壊回避をもって、「勝利」と再定義しようとしているのである。これは、ある意味で非常にソ連的・ロシア的であり、客観的軍事成果よりも歴史叙述とナラティブ管理によって勝敗を決めようとしているわけである。

プーチンの意思は未知数

 となると、重要になってくるのが、「ナラティブ設計」である。レポートでは、「誇り」、「未来への勝利」、「命のために」という3本線を並行的に提示している。超愛国派には「勝った」と言い、疲弊層には「平和と正常化」と言い、穏健派には「未来志向」と言うという巧妙な多層的メッセージ戦略が提唱されている。

 レポートで面白いのは、「問題ある聴衆」の分析である。レポートでは、「カウチ愛国者」、「退役軍人強硬派」、「普通の生活を望む疲弊層」、「軍需産業従事者」などを細かく分類している。つまり、クレムリン側は、戦争終結そのものより、終結後に強硬派が暴発しないかをかなり警戒しているというのだ。だからこそ、愛国ナラティブは維持しつつ、過激派は周辺化して、「管理された雪解け」に進むという青写真になっている。

 また、このレポートでは、恩赦、ユーモア復活、「平和」という語の復権、祝祭空間の正常化なども提案されている。これは裏を返せば、「今のロシア社会は、かなり軍事動員モードに偏りすぎている」という自己認識があるということを意味する。

 以上、ドシヨ・センターの報道に基づき、ロシア大統領府で作成されたというレポートを概観してみた。筆者自身は、もちろんレポートの原文を見たわけではないが、クレムリンの要路でそうしたレポートが作成されたということは、おそらく事実なのであろうと想像する。ただし、レポートが作成されたからといって、今回見たような認識や方針がクレムリンで優勢になっているのかは定かでないし、ましてやプーチン大統領がこの提言を受け入れるかはまったく不透明である。

 ドシヨ・センターも、今回の記事を以下のように締めくくっている。「プーチンが、この『平時への回帰』計画にゴーサインを出すかどうかは分からない。少なくとも本人は、紛争の早期終結を示唆するような発言は何もしていない。しかし、このレポートに関して注目すべきなのは、それが、大統領自身が国内、とりわけ経済面の問題の一部を認めるようになる少し前に準備されていたことである。こうした動きはすべて、プーチン周辺で進行している対立を背景としている。すなわち、一方には、政治技術によって状況を管理しようとする大統領府スタッフがおり、他方には、さらなる『引き締め』を主張する連邦保安局第2局が存在しているのである」。


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