しかも、ニューヨーク・タイムズによると、新政権の指導者には反米強硬派で核武装論者として知られるアハマディネジャド元大統領を擁立する計画だった。元大統領は大統領選への出馬を3回阻止され、イスラム政権とは犬猿の仲。事実上の軟禁状態だった。元大統領は軟禁される前の2024年と25年にハンガリーに旅行しており、モサドはこの地で接触したとみられている。
米国とイスラエルは元大統領をどのようにコントロールする手はずになっていたかは不明だが、権力と引き換えにモサドの大物秘密工作員になっていた可能性がある。元大統領はかつて同紙とのインタビューで、トランプ氏を「行動の人」と称賛、対米関係修復を語っていた。
戦争が無駄に
しかし、米軍による「逆封鎖」が解除されれば、イランは核交渉を急ぐ必要はない。トランプ大統領が非難してきたオバマ政権の「核合意」と似たような結果になるのではないかとの批判も強い。
核合意は「対イラン制裁を解除する代わりに、核開発を15年制限する」という内容。交渉に2年を費やし、160ページの合意文書をまとめた。
これに対しトランプ政権では専門家が少なく、緻密な交渉は不得手なのが現実。トランプ大統領はイランの核開発の制限期間を「20年」と指摘し、「核開発を一切認めない」としてきた方針をすでに転換した。
大統領が仲介した「ガザ戦争」の停戦は第1段階で止まったまま中途半端な状況にある。今回もホルムズ海峡開放という第1段階で協議がストップする恐れがある。
イラン側が米国の足もとを見ているのは明らかで、停戦期間中に核協議をまとめるのは難しいというのが大勢だ。「圧力がなくなれば、イランが交渉に応じる必然性もなくなるからだ」(ベイルート筋)。核爆弾11個分に相当する60%高濃縮ウランの国外搬出や核関連施設の解体には徹底的に抵抗するだろう。
共和党タカ派のウィッカー上院議員は「これまでの戦争が無駄になってしまう」と暫定合意に猛反対。「最悪の過ち」(クルーズ上院議員)という意見も多い。トランプ氏はこうしたタカ派をなだめる必要性がある。
イランは「耐えた勝利」と評価
イラン側は暫定合意を、圧倒的な軍事力を持つ米国とイスラエルとの戦いに耐えて勝利した結果、と評価している。外務省のバガイ報道官はペルシャ帝国が世界最強のローマ軍を打ち破った歴史的な故事に例え、現代の“ローマ軍”に再び勝ったとSNSに投稿した。現代の“ローマ軍”とは米軍のことだ。
イラン側はホルムズ海峡を封鎖し、世界経済を人質に取ることで、無条件降伏を突き付けたトランプ大統領の要求を跳ね返した。イランは海峡封鎖の効果は絶大と自信を深めており、将来的に攻撃を仕掛けられれば、すぐに海峡封鎖という行動に出るだろう。地政学的な抑止力を手に入れたことで核兵器保有国と同等の強い立場を獲得した。
