パイプラインを経由した天然ガス輸出は、輸送価格を抑えられる一方で、パイプラインが分岐していない限り売り手と買い手の関係は1対1になる。政治的な緊張が高まるなどしてロシアが不満を持てば、ロシア側は理由をつけて輸出を遮断することができる一方、逆に中国側が輸入を断れば、ロシア側はガスの売り先を失うことになる。
中国はエネルギー資源の輸入にあたり、特定の国家に2割以上を頼る状況を避けようとしているといわれる。ロシアがこれまで、政治的対立が深まった欧州向け天然ガス輸出をあからさまにストップしてきた事実を目の当たりにする中、中国がロシアを全面的に信頼する理由はまったくない。
米中の思惑
それでも中国がロシアを重視する姿勢を鮮明にするのは、政治的パフォーマンスという側面を含めてでも、今後の対米交渉で優位に立つ材料としてロシアを利用しようとする思惑があるのは間違いない。
米中首脳会談において、中国側の焦点は台湾問題だった。中国外務省は同問題が首脳会談の主要議題のひとつだったと強調し、台湾独立を絶対に認めないとした中国の立場を米国側が「理解した」と主張した。ただこれに対し、米側の発表は台湾問題に踏み込んでいない。
中国側は、イラン問題から抜け出せない米国に攻勢をかける立場だ。今回の会談で両国は「建設的戦略安定関係」の構築で合意した。中国は大国として尊重されたと国内外にアピールし、今回の米中会談の成果を最大限に生かそうとしている。
そして、米国に対するさらなる圧力を高める上でロシアの存在は意味を持つ。そこでのロシアの重要性は、中国と対等のパートナーとしてではなく、資源供給元として中国を支える巨大な国土を持つ国家というものだ。かつての旧ソ連時代の中ソ関係とはまったく逆の関係だといえる。
50万人の死者
ロシアは、中国に逆らうことはできない。中国の支援抜きでは継戦も困難なウクライナ侵攻だが、ロシアは現在も痛手を受け続けている。
5月には、今回の侵攻をめぐりショッキングな数字が公表された。英政府機関が5月27日、22年の侵攻開始以降のロシア軍の死者数が50万人に達したとの推計を明らかにしたのだ。
ロシア軍の死者数をめぐる調査は、BBCや独立系メディアなどが新設された慰霊碑や墓、公式発表などの情報をもとに調査を進めてきており、すでにBBCは22万人超の死亡した兵士、将校の名前を確認していた。実際は、その数字を大きく上回るのは確実で、50万人という数字は決して誇張とはいえない。
ロシア軍をめぐっては、特に前線での訓練が乏しい契約兵による人海戦術での攻撃を繰り返しており、死者数の増大ペースの高まりが指摘されている。ソ連時代のアフガニスタン侵攻における死者数が約1万5000人とされており、その規模がいかに大きいかが分かる。
