2026年6月9日(火)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2026年6月9日

 キューバは67年間全体主義国家であり、政府は組織的な政治的反対勢力を一切認めず、市民社会の存在すらほとんど容認していない。その主要な柱は内務省、軍、そして共産党であり、これらは極めて強固に結束している。今のところ、ベネズエラのロドリゲスのように米国によって後継者に指名されるような人物を生み出すような、目立った亀裂は見られない。

 18年に大統領を退任し政府内で正式な役職を持たないカストロに対する米国の起訴は、トランプのハバナに対する影響力を高めることを目的としているが、この措置は共産主義政権の抵抗を強める危険性がある。

 キューバの強力な治安機関は、ほぼ全ての反対勢力を弾圧してきた。政府は抑圧と貧困の管理に長けており、社会のあらゆるレベルを長年にわたり厳しく支配してきた。キューバには約1200人の政治犯がいるが、治安部隊は、数百人の抗議者や反対派を殺害したと非難されることはほとんどなく、反体制派の抑え込みに成功している。

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政権内部に心理的な動揺

 トランプは、5月に入り、キューバに対し石油封鎖に留まらず、多層的な圧力を急速に強化した。5月1日の大統領令によるキューバ高官等に対する制裁の拡大、7日のキューバ軍傘下の軍系複合企業(GAESA)などへの追加制裁、5月14日にはラトクリフ米中央情報局(CIA)長官をキューバに派遣し政権側に直接要求を突きつけ、さらに5月20日にはラウル・カストロに対する起訴を公表した。

 そして、軍事面でも、5月13日頃からキューバ周辺の偵察飛行の強化、下旬には、空母打撃団をカリブ海に展開するなど、一連の動きは単なる象徴的な圧力ではなく、政権中枢への直接的な警告と実効的な効果を狙った戦略の一環であると言える。

 ラトクリフ長官との会談には、キューバ側から、対米窓口の役割を勤めるラウル・カストロの孫のラウル・ギジェルモ、ラサロ・アルバレス・カサス内務大臣、ラモン・ロメロ・クルベロ(情報機関のトップ)らが参加した。米側からは、経済・安全保障問題で「真剣に関与」する用意があるが、キューバが根本的な変革を行った場合に限るとし、具体的には、中国・ロシア・イランなどとの軍事・諜報協力の停止、GAESA中心の経済体制の大幅開放、政治犯釈放を含む民主化に向けた改革等、キューバ側体制の核心を突く改革を要求したと報じられている。

 特にその6日後の5月20日にラウル・カストロを殺人罪で起訴したことを公表し、ベネズエラのマドゥーロの様に「法執行措置」として実力でカストロの身柄を拘束するかもしれないとの脅かしをかけたことは、政権内部に心理的な動揺を与える狙いがあったとみられる。米側は、カストロ一族の象徴的な排除を事実上の条件として突きつけ、体制存続の引き換えに大幅な改革を迫っているように見える。


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