2026年7月29日(水)

商いのレッスン

2026年7月29日

倒産とは「選べなくなること」

 東京商工リサーチによると、2026年上半期の全国企業倒産は5346件に達し、前年同期を7.1%上回った。企業倒産という言葉からは、突然資金が尽きる姿を想像しがちだが、多くの会社は、ある日突然倒れるわけではない。その前に、いくつもの小さな先送りがある。

2026年上半期倒産は5年連続で増加している(東京商工リサーチHPより) 写真を拡大

 赤字事業をもう一年続ける。採算の悪い店舗を閉められない。利用者の減った商品やサービスを残し、回収の見込みが薄い新規事業に追加投資する。

 そこには、雇用を守りたい、取引先に迷惑をかけたくない、長年の事業を自分の代で終わらせたくないという責任感がある。むしろ責任感が強い経営者ほど、簡単にはやめられない。

 しかし、事業を続けることが、必ずしも会社や社員を守ることにつながるとは限らない。利益を生まなくなった事業に資金を注ぎ続ければ、本来守るべき雇用まで危うくなる。将来性のある事業へ人材を移せなければ、会社全体の成長も止まる。取引先との関係を守ろうと無理を重ね、会社そのものが存続できなくなれば、かえって多くの相手に迷惑をかける。

 倒産とは、赤字になることだけではない。打てる手がなくなり、自ら打ち手を選べなくなることである。

 資金に余裕があるうちは、縮小、売却、提携、配置転換など複数の選択肢がある。しかし決断を先送りするたびに資金は減り、人材は疲れ、選択肢は一つずつ消える。

 撤退できる会社と倒産に追い込まれる会社の違いは、失敗の有無ではない。まだ選べるうちに、選び直せるかどうかである。

続ける美徳が判断を曇らせる

 日本の企業経営では「続けること」に高い価値が置かれてきた。創業以来の事業、雇用、取引関係を守り、苦しいときこそ耐え、改善を重ねる。短期的な利益だけで判断せず、長い時間をかけて技術や人材を育てる姿勢は、日本企業の強さでもある。

 しかし、その美徳が環境変化を認めない理由に変わることがある。「まだ努力が足りない」「ここでやめれば、これまでの苦労が無駄になる」「自分たちが諦めたと思われたくない」といった感情が重なると、事業を続ける目的が、顧客に価値を届けることから、過去の判断を正当化することへと変わっていく。

 すでに支払い、取り戻せない費用を「サンクコスト」、日本語では埋没費用という。本来、継続の判断は、今後生まれる利益と今後必要になる費用で行うべきだ。過去にいくら使ったかは、未来の収益を増やしてはくれない。それでも人は、資金、時間、努力を多く投じた対象ほど手放せない。

 経営では、事業を提案した人が継続判断も担うことが多く、この心理がさらに強く働く。撤退を 決めれば、自分の過去の判断を否定したように感じ、担当部門も存在意義を問われる。その結果、会議で問われるのは「続けるべきか」ではなく、「どうすれば続けられるか」だけになる。

 経済産業省が2020年に公表した『事業再編実務指針』でも、撤退や売却を進めにくい理由として、判断基準や検討プロセスの不明確さ、企業規模や売上規模が縮小することへの抵抗感が挙げられている。撤退できない原因は経営者の勇気だけではない。誰が提案し、誰が決めるのかも曖昧なまま、組織の仕組み自体が「続けること」を前提につくられているのである。


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