2026年7月29日(水)

商いのレッスン

2026年7月29日

良品計画は何を捨て、何を守ったのか

 「無印良品」を展開する良品計画は、26年8月期第3四半期までの営業収益と各段階利益が過去最高を更新し、通期でも営業収益9070億円、営業利益980億円を見込むなど、国内外で成長を続けている。しかし同社も、かつてブランドの存続が危ぶまれる経営危機に直面した。

 1980年に誕生した無印良品は、「わけあって、安い。」という思想とともに成長した。しかし出店と商品数の拡大が進む中で成功体験が判断を支配し、無印良品らしさより規模の維持が優先されるようになった。

 01年中間期には38億円の赤字に転落。当時社長に就任した松井忠三は、慢心、危機感の喪失、短期的対策への偏重、ブランドコンセプトの希薄化、急激な拡大政策など、内部要因の大きさを指摘している。

 同社は不採算店舗や事業を整理し、不良在庫を処分した。同時に、商品開発、店舗運営、社員教育、業務手順を見直し、個人の経験や勘に依存していた仕事を仕組みに変えた。

 良品計画が捨てたのは、単なる店舗や商品ではない。売れない商品を残し、業績悪化を現場の努力で埋め合わせる「負ける構造」だった。

 撤退は目的ではない。不要になったものを取り除き、残すべき価値を強くするために行うものだ。

 良品計画は、すべての店舗や商品ではなく、「無印良品とは何か」という事業の核を守った。続けることと、守ることは同じではない。守るべきものを明確にできる会社だけが、それ以外を手放すことができる。

マクドナルドは閉店と投資を同時に決めた

 日本マクドナルドも、既存店売上高が前年比15.2%減となり、276億円の経常損失、347億円の最終損失を計上した15年、深刻な経営危機に直面した。同社は「ビジネスリカバリープラン」を打ち出し、131店舗を戦略的に閉店した。

 しかし、行ったのは単なる店舗削減ではない。同時に約500店舗を改装し、将来性のある店舗には積極投資する方針を示した。閉める店を決める一方、残す店をより魅力的にする。撤退と投資を一つの経営判断として実行したのである。

 経営が苦しくなると、多くの会社は一律のコスト削減に走る。人員、広告費、設備投資を等しく削れば公平に見え、社内の反発も抑えやすい。しかし、一律削減は弱い事業だけでなく、伸びる可能性のある事業まで弱くしてしまう。赤字店舗を残したまま優良店舗の人員や販促費を減らせば、会社全体の競争力が落ちる。

 マクドナルドの判断は逆だった。将来性の乏しい店舗を閉じ、そこで使っていた資金や人材を、顧客体験を高められる店舗へ振り向けた。閉店によって会社を小さくするのではなく、強い店舗を増やすために店舗構成を変えたのである。

 撤退とは、何かを減らすことではない。限られた経営資源の置き場所を変えることである。赤字事業に人を置けば、その人を成長事業に置けない。採算の悪い店舗に改装費を使えば、顧客が増えている店舗への投資は遅れる。経営会議で不振事業に多くの時間を使えば、次の市場を考える時間も減る。撤退の成否は、何を捨てたかではなく、解放した資源をどこへ移し、何を生み出したかによって決まる。

ドラッカーが説いた「体系的廃棄」

 経営学者ピーター・ドラッカーは、経営者に「体系的廃棄」を求めた。商品、サービス、業務、制度は、役割を終えても自ら消えてはくれない。かつて成果を上げたものほど支持者が多く、予算や人員を持ち続ける。だから経営者は、問題が起きたときだけでなく、定期的に既存事業を見直さなければならない。

 ドラッカーは、昨日のものを計画的、体系的に手放してこそ、最も希少な資源である有能な人材を新しい仕事へ振り向けられると説いた。新しい取り組みについても、何を期待し、いつまでにどのような成果を求めるかをあらかじめ定め、期待を大きく下回った時には、人や資金を追加する前に、やめるべきかを問わなければならない。


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