日本政府はナフサの供給は十分確保されているとの姿勢を崩さなかったが、販売量は現実として減った。原油とナフサの輸入量は今年1月から5月はそれぞれ前年同期比24.0%と30.5%の減少となっており、輸入減の影響は原油備蓄の放出によっても埋めることができていないようだ。政府が補助金を出して価格を引き下げてきたガソリンや軽油の消費量はほぼ横ばいの微減にとどまっているため、国産ナフサよりもガソリン・軽油の生産が優先される状況があるのではないかとの疑念も浮かぶ。
中国はなぜナフサ不足を乗り切れたのか
日本の隣国、中国も地理的位置から当然ながらホルムズ海峡閉鎖から受ける影響は甚大なはずである。実際、26年1月から5月の期間、中国のナフサ消費量は前年同期比4.8%の減少となった。しかし化学産業の付加価値額は前年同期比で6.1%増加し、利潤額は71.6%と大幅に拡大している。
物量ベースで見ても、エチレンは2.2%、化学繊維は2.4%、化学薬品原薬は3.4%といずれも前年同期比で増産となっている。汎用プラスチックのPEとPPについてはそれぞれ前年同期比で9.2%、5.2%の減少となっているものの、先に見た我が国の状況と比べれば減産幅ははるかに少なく済んでいる。
中国が多くの化学製品を増産できたのはなぜなのか。中国ではナフサに依らない、石炭を原料とした石炭化学(煤化工と呼ばれる)の基盤があるためだ。
石炭化学の同時期のPEとPPの生産量は、前年同期比39.6%と58.5%と大幅に増加した。ナフサの供給制約で石油原料の汎用プラスチックに開いた穴を、供給が安定していて比較的価格も抑えられていた石炭を原料とした石炭化学が埋めたのである。
「時代遅れ」の石炭化学が支えた供給力
中国の石炭化学の歴史は長い。化学というイメージと少々遠いかもしれないが、鉄鋼生産に必要なコークスの生産も化学的プロセスであるし、石炭をガス化して都市ガスとして供給することは戦前から行われてきた。
戦後は石炭から合成アンモニアを作り、肥料を生産する工場が全国に建設され、石炭と石灰石を電気炉で加熱してカーバイド(炭化カルシウム)を作り、カーバイドに水を加えると産出するアセチレンガスから汎用プラスチックたるPVC(ポリ塩化ビニル)などを生産するカーバイド産業が立ち上がった。これらは中国では伝統型石炭化学と呼ばれている。
中国政府は06年に伝統型石炭化学への投資を抑制する一方、現代型石炭化学の振興を支援する政策を公表した。24年時点の直接・間接液化による、いわゆる人造石油の精製量は753万トンで同年の石油消費量の1%程度、合成天然ガスは71.5億立方メートル(㎥)で同年の天然ガス消費量の2%弱となった。もっともこれだけでは石油・天然ガスの代替としての役割は限定的である。
しかし合成アンモニアであれば石炭由来の生産量は全体の78%と、石炭化学が肥料生産を支えている状況であるし、メタノールの84%が石炭を原料に生産されている。そしてそのメタノールを使って生産されるPEとPPの生産量はナフサ由来と合わせた生産量全体の15%におよぶ。
