2026年8月31日(月)

World Energy Watch

2026年8月31日

エネルギー安全保障オプションの重要性

 もちろん我が国がいまさら、エネルギー安全保障のオプションとして石炭化学に投資するのは非現実的であるのは言うまでもない。中国で石炭化学が採算がとれるまでに発展したのは、国内の石炭生産、とりわけ内蒙古西部や陝西省、新疆などの西部地域で安価な石炭の供給が増えたことが寄与している。西部炭を東部に輸送するよりも産炭地近くで電力や化学製品に加工した方が合理的であるためだ。

 近年まで石炭化学が低収益であったことも事実であり、その投資を他の事業に回せば得られる機会費用の損失に耐えてこられたのは国有企業ならではで、日本の企業が耐えられるはずもない。また中国では今後脱炭素への対応と再エネ電力の増加に伴って電力部門での石炭需要が減少していく見通しであるが、250万人の雇用を抱える石炭産業の減産のインパクトを和らげるクッションとして、石炭化学の需要拡大が位置づけられており、政治的な意味合いもある。

 しかし中国が現代型石炭化学という世界的にも商業化されていない領域でチャレンジしたことの意味は深く受け止めるべきである。中国が自国のエネルギー安全保障戦略として様々なオプションを持つことを重視していることの表れであり、これは石炭化学に限った話でもなく、例えば石油・天然ガスの輸入元の多元化など化石燃料に関する様々なリスクに対応できる態勢を整えている。

 脱炭素という単一の価値にばかり傾斜し、エネルギーの安定供給や経済性といった他の重要な価値を軽視したエネルギー政策を展開してきた我が国と対比すると、多様な価値の実現に努めてきた中国の戦略的優位はホルムズ海峡封鎖という事態に至って明らかとなった。我が国もさすがに、石炭火力の稼働率の上限緩和など、ようやく拙速な石炭外しを見直す動きが見られるが、中国の周到な備えに比べると定見なく右往左往しているだけにしか映らない。

 エネルギー安全保障の重要性に関する中国政府の強い決意が20年足らずという短い期間で現代型石炭化学が産業として立ち上がることを可能にしたと評価できる。そして企業も政府の補助に頼るばかりでなく、当初こそ赤字を計上しながらも、イノベーションを実現し、黒字転換して持続可能なビジネスへと成長させることに成功したのだ。

 重要なのは、政府が自国の経済社会の発展を最優先の国益とした上で、エネルギー・環境政策を推進する決意を固めることである。脱炭素は美辞麗句で飾り立てられ、一般ウケが良いのでこれまで過大評価されてきたのに対し、安定供給は有事の際にしかその価値が理解されない。それだからこそ、政府には選挙目的で一般ウケに安易に走ることなく、風当たりを跳ね返して中長期的な国益増進への取り組みを実質本位で進める胆力を期待したい。

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