ホルムズ海峡封鎖でナフサの消費量が減少している今年はメタノールを経由した石炭由来のPEとPPの生産量シェアはさらに大きく上昇することは間違いない。そしてエチレングリコールはペットボトル容器や衣料用ポリエステルの原料であるが、石炭化学によって34%が供給されている。
このように中国の現代型石炭化学の歴史は20年弱と短いが、一定の存在感を占めるに至っている。ホルムズ海峡封鎖によるナフサの供給不足という危機的状況に陥る中、現代型石炭化学の存在によってナフサは高付加価値製品の生産に優先的に供給され、現代の経済社会を維持する上で重要な汎用プラスチックの原料となるPEやPPは石炭化学によって大幅な生産減を食い止めることができたのである。
産業としても黒字構造に
筆者は従来より中国の石炭化学の振興策を評価する論稿を発表してきたが、石炭化学など「時代遅れ」の技術で将来的な発展の見込みなどないといったコメントを受けたこともある。確かに、石炭化学を大規模かつ包括的に展開しているのは中国以外には、かつてアパルトヘイト政策で石油の禁輸措置を受け、代替燃料として石炭液化などを進めた南アフリカくらいしかない。
注目すべきは、中国の石炭化学は当初は赤字状態が続いていたものの、現在はいずれも利益が出る構造となっている点である。石炭化学の経済性は装置産業であるが故の巨額の設備投資費用に加え、原料となる石炭の価格、代替品の原料となる石油・天然ガスの価格、そして規模の経済性を左右するプラントの稼働率といった要因に影響される。ナフサ代替として役割を果たしているPE、PPを生産するMTOプロセス(Methanol To Olefine:メタノールからオレフィン系炭化水素を合成) は15年前後には技術的に成熟し、設備のほぼ完全な国産化に成功したことで固定費用を低減、さらにプラントの運転が安定したことで稼働率が上昇、18年以降は黒字基調が定着した。
他方、石炭液化と合成天然ガスの採算性はより厳しいが、それぞれ22年と24年に黒字転換となった。そしてエチレングリコールの採算性は相当に厳しく、25年になってようやく黒字転換と相成った。
現在、MTOプロセスは国際原油価格がバレル当たり45~55ドルが損益分岐点であるとされ、原油価格が100ドルを超える状況では利潤率は40%を上回るとされている。石炭液化の場合、損益分岐点は65ドル、合成天然ガスは同70ドル、エチレングリコールは50~60ドルと算定されており 、中国の石炭化学は平時であってもある程度収益を確保できる状態にまで体質強化が進んだと言えそうだ。
