東急東横線の祐天寺で、友人と中華料理を食べた帰り、すでに10時半をまわっているというのに、食通でレストラン通の瑞枝ちゃんが、駅前に知り合いのジェラート屋がまだ開いている、という。駅から目と鼻の先、外壁は白と緑、内装はグレーを基調としたオシャレな店だ。そして、奥で待つのはカラフルなジェラート……と思いきや、どれも銀色の蓋がしてある。すると、すかさず、瑞枝ちゃんがつぶやく。
「蓋をしてあるのは、おいしいジェラート屋さんの証拠です」
彼女によれば、それは、温度変化にとてもデリケートなジェラートをできるだけ空気に触れさせないためで、それだけ質にこだわっている店の一つの証なのだという。
もし、書いてある名前から味が想像できなければ、遠慮なくお願いすれば、スプーンで味見させてくれる。さっそく、私も好物のピスタッキオとチョコレート、プラムのジェラートをいただき、以来、すっかりこの店のファンになった。
何を隠そう、私はアホがつくほどピスタッキオのジェラート好きである。おそらく、イタリア各地で食べた回数は百はくだらない。痩せないはずだ。それに10年ほど前、シチリアのピスタッキオの名産地、エトナ山の山麓ブロンテ村で農家を取材したことがある。岩ばかりの乾いた、そして険しい山麓の畑、そこから収穫される青々とした大粒のピスタッキオは、香りもよく、クリーミーで、それまで食べたピスタッキオを凌駕する何かで、しかも値段も随分とお高い希少なものだった。ところが、この店のまだ若い主人は、何と、ブロンテ村を自分の足で歩いて見つけた納得のいく農家から、直接、粒で輸入し、自らペーストにして使っていると言うではないか。
ジェラート3種盛り、コ-ンが670円、こちらも決してお安くはないが、このご馳走を対価と言わずして何だろう。何より余韻の残る美味しさだった。
しかも事情通の瑞枝ちゃんによれば、主人の茂垣綾介さんは、イタリアの自家製ジェラート製造機とソフトクリーム製造機の老舗『カルピジャーニ』社の講師として、国内のプロ向けに指導も続けているという。