VWのジェッタなどの米国で販売されているディーゼル車は、排ガスの試験を感知するソフトを搭載し、試験の時には規制値をクリアしていたが、実際の走行時には、燃費を悪くしないためか規制値を大幅に超えるNOXを排出していることが、ウエストバージニア大学の走行試験で明らかとなった。
ジェッタの場合には、規制値の14倍から35倍のNOXが排出されていた。同大学が実験結果をEPAに報告したことから、EPAによる調査が行われ不正なソフトの搭載が明らかとなった。
NOXが引き起こす健康被害
不正なソフトを搭載したため、リコール対象になるVWとアウディ車は全世界で1100万台とされている。米国では48万2000台が対象だが、英ガーディアン紙によると、米国の対象車が排出するNOXの量は規制値通りであれば毎年1039トンだ。しかし、実際の排出量は毎年1万392トンから4万1571トンに達すると同紙は分析している。
米国で販売されている乗用車のうちディーゼル車の占めるシェアは3%にしか過ぎないので、その影響は限定的だが、欧州ではディーゼル車のシェアが高く、影響は大きい。欧州が大半を占める1100万台の対象車が排出するNOXの量は年間24万トンから95万トンに達するとガーディアン紙は伝えている。
欧州自動車工業会によると、14年に欧州連合(EU)の西15カ国で販売された乗用車1166万台に占めるディーゼル車の比率は、フランス63.9%、英国50.1%、ドイツ47.8%などであり、EUの西側15カ国の平均では、53.1%になっている。
米国の12年のNOX排出量は1226万トンであり、今回のVWの対象車により排出されている量は1%以下なので、その影響は大きくない。一方、フランス、ドイツ、英国の12年のNOX排出量は、それぞれ98万トン、127万トン、106万トンであり、VW車の排出量がかなり影響を与えている可能性がある。
ロンドンでは大気汚染により年間9500名が寿命を縮めているとの報告もあり、キングスカレッジの教授はディーゼル車の排ガスにより英国では5800名が寿命を縮めているとしている。また、NO2の排出増により心臓と肺疾患の死亡が、それぞれ0.88%、1.09%増加するとの研究結果をガーディアン紙が報じている。
車の排ガスが引き起こす問題にはNOXによる健康被害に加え、CO2が引き起こす地球温暖化がある。VWの不正発覚後、電気自動車メーカー・テスラモーターズのイーロン・マスクCEO(最高執行責任者)は、「世界が真に懸念しなければいけない問題はCO2だ」と発言したと報道されている。