2024年4月26日(金)

WEDGE REPORT

2016年1月8日

 米欧を含め国際的には、今回の宗派対立のきっかけになったサウジによるシーア派の宗教指導者ニムル師の処刑に対し、人権軽視との批判が強い。こうした空気を読んだイランはサウジの断交を挑発としながら、冷静な対応に切り換え始めていた。

 特にロウハニ大統領はテヘランのサウジ大使館に乱入するなどして拘束された群衆を「犯罪者」と呼び、対立をこれ以上激化させないというメッセージを送っていた。というのも、イランは米欧との核交渉がやっと合意に達して苦しんできた経済制裁の解除が始まりつつあり、今回のサウジとの関係悪化で新生イランの再出発が頓挫することを危惧しているからだ。

足を引っ張るチャンス

 スンニ派諸国の同調が少ないこと、国際的な批判にさらされていること、そしてイランが冷静に対応し始めて外交的な得点を上げていることにサウジのサルマン体制が焦燥感を深めているのは想像に難くない。こうした焦燥感がサヌアのイラン大使館空爆につながったとの見方が出るのは当然だろう。

 しかし今回の爆撃は危険な反動を呼びかねない。それはイランの保守・強硬派の動きだ。革命防衛隊や聖職者の一部など保守・強硬派の間には、昨年7月の核合意が「米欧に譲歩し過ぎの屈辱的な内容」との不満が渦巻いており、ロウハニ政権が米国と接近していることも強く非難している。

 ロウハニ大統領が大使館を爆撃されてもなお、サウジを厳しく指弾しないようだと、こうした保守・強硬派が大統領の足を引っ張るため、跳ね上がり的な行動に出る懸念もある。湾岸諸国やレバノンなどで影響下にあるシーア派民兵などを使ってサウジの権益を攻撃させることもあり得よう。

 最近、イランの艦船がペルシャ湾で米空母艦隊の近くにロケット弾を撃ち込んだ事件もあった。サウジの艦船や施設を狙ったこうした挑発行動がないとはいえない。挑発行動が軍事的な衝突につながるケースも多い。そうなれば、動揺が小さかった石油価格が急上昇、日本が大きな影響を受けるのは必至だろう。

  
▲「WEDGE Infinity」の新着記事などをお届けしています。


新着記事

»もっと見る