オトナの教養 週末の一冊

2017年7月15日

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塚崎公義 (つかさき きみよし)

経済評論家

1981年 東京大学法学部卒、日本興業銀行(現みずほ銀行)入行。主に経済調査関連の業務に従事。2005年 銀行を退職して久留米大学へ。現職は久留米大学商学部教授であるが、当サイトへの寄稿は一個人として行うものであるため、肩書きは「経済評論家」とする。

 地域になくてはならない先については、地域金融機関の仕事ではなく、地方公共団体が保証すべきであることは、上述の通りです。「事業に将来性はあるが、担保・保証がない先」への融資は、よほど高い金利でないと採算がとれません。

 銀行の融資は、借り手が大きく成長しても貸し手の得られるものは金利収入だけです。一方で、借り手が倒産すれば銀行は貸出元本を失います。「事業に将来性はあるが、担保・保証がない先」への融資は、銀行にとってハイリスク・ローリターンなのです。

 そうした企業に資金を提供するとすれば、投資家が株式投資をする方がはるかに相応しいでしょう。企業が大きく成長すれば投資家は大きな利益を得ますから、投資家にとって当該企業への株式投資はハイリスク・ハイリターンだからです。

 本書には、「赤字で傾いた借り手に対しても、借り手にとって必要ならば追加融資をすべき」とありますが、これも同じことです。赤字で傾いた企業に出資をするならば、ハイリスク・ハイリターンですが、融資をするならばハイリスク・ローリターンです。銀行に「出資せよ」というならば、まだわかりますが、「融資せよ」というのでは、「慈善事業」の強要になってしまうでしょう。それは無理というものです。

 最後に3つ、コメントです。

(1)本書は、「バブル崩壊後に不良債権処理を目指した検査マニュアル等が地域金融機関の融資姿勢を大きく変えてしまった」としていますが、検査マニュアル以前の地域金融機関は融資先の事を本当に理解して事業性を見て貸していたのでしょうか? 筆者の知る限り、決してそうではありませんし、上記のように、それはハイリスク・ローリターンですから、やってはいけない事です。もちろん、「検査マニュアル以前の方が今よりはマシだったので、そこまで戻ろう」という事ならば、理解できますが。

(2)金融庁は金融機関の味方ではないのですね。前身が「金融監督庁」なので、仕方ありませんが。普通の役所は、所管する業界の健全な育成に努めるのに、なぜ金融庁だけ?

(3)森氏は、「異端児」なのに、なぜ偉くなったのでしょうか?更に重要なことは、森氏の後任者は、森氏と同じ考えの人なのでしょうか?もしも、森氏の後任が「普通」の人だと予想されれば、銀行にとって森氏の指示に従うインセンティブが大きく削がれます。そのあたりは、本書には書いてありませんでしたが、大いに興味深いところですね。各銀行としても、森長官の御指示に真摯に向き合うのか、金融庁の人事異動を待ちながら「やり過ごす」のか、重要な判断を迫られることでしょう。

  
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