2024年11月22日(金)

WEDGE REPORT

2018年2月15日

2つの顔にジレンマ

 米国のトランプ大統領は当初、シリアの紛争には巻き込まれず、IS壊滅に集中的に取り組む考えを表明していたが、ISが壊滅状態になったこともあり、マティス国防長官らの進言を受け入れて政策を変更。敵性国であるイランの勢力拡大阻止のために、シリア東部に米部隊を長期駐留させ、シリアをめぐる覇権争い「グレートゲーム」に関与していく方針に変わった。

 グレートゲームの大きなポイントは最大の存在感を持つようになったロシアの思惑と動向だ。ロシアは2015年秋の軍事介入によって反体制派をつぶし、アサド政権を圧倒的な優位に導いた。今や、ロシア抜きではシリア紛争の政治解決は考えられないし、プーチン大統領がロシアによる平和“パックス・ロシアーナ”を確立し、グレートゲームの勝利者になろうとしているのは間違いないだろう。

 このためプーチン氏は①アサド政権の維持②ロシア海軍、空軍基地の保持③大統領選挙直前の国内世論へのアピール④中東での影響力拡大、などの軍事介入による成果を手放さないため、反体制派を除く各当事者との関係を悪化させないよう必死になっている。

 今月7、8日の両日、ユーフラテス川沿いのデイルゾールで、米支援のSDFと親シリア政府民兵軍団が衝突、米軍の空爆で民兵軍団の約100人が死亡し、この中に「多くのロシア人傭兵が含まれていた」(米紙)。しかし、ロシアはそれにもかかわらず、米国を非難することは避けた。

 また、トルコ軍が1月に北西部のアフリン地域に侵攻した時には、これを黙認。イスラエル軍機が2月10日、シリア、イランの軍事拠点を空爆した際も、最新鋭の防空システムを作動させず、空爆を容認した。トルコもイスラエルも軍事行動の前にはロシアから了承を得ていたということだろう。

 しかし、ロシアは一方で、イランがイスラエル領空に無人機を飛ばした時にはイスラエルに通告していない。イランの行動を容認した上でのことだと見られている。トルコもイランもロシアが開催するシリア和平会議の有力メンバーだ。イスラエルのネタニヤフ首相が再三訪ロしているように、イスラエル・ロシア関係は良好だ。

 だが、宿敵同士のイスラエルとイランの対立が激化した場合、ロシアが2つの顔を使い分けて両国との良好な関係を維持できるのかどうか。「いずれどちらかに付かなければならない。ジレンマだ」(ベイルート筋)という中、“パックス・ロシアーナ”の行方に赤信号が灯り始めている。
 

  
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