オトナの教養 週末の一冊

2019年8月9日

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本多カツヒロ (ほんだ・かつひろ)

ライター

1977年横浜生まれ。2009年よりフリーランスライターとして活動。政治、経済から社会問題まで幅広くカバーし、主に研究者や学者などのインタビュー記事を執筆。現在、日刊サイゾーなどに執筆中。ブログ:http://golazo-sala.cocolog-nifty.com/pinga/

――不思議なのは、産業がシフトしているにもかかわらず、彼らは鉄鋼業にこだわっています。他の産業を誘致して生活をどうにかしようとする意志が感じられません。

西山:彼らは「新しい産業が向こうからやって来る。そうすれば成功し、地域も活気を取り戻し、国も良くなり、自分たちもメインストリームに戻り、救済される」と信じています。

 また、アメリカの都市と日本の地方都市を比べると、アメリカの地方都市では中央政府からの移転支出がほとんどありません。そうなると、地域で経済的な基盤を整えないとならない。ヤングスタウンのように鉄鋼業という特定の産業が、地域を支配してしまうと政治家も鉄鋼業と癒着するようになる。そうでないと選挙で当選できません。そうした既得権益層が一定数蔓延っている地域では新しい産業を誘致しにくい。

――また同時に住民たちも変化を非常に恐れているように感じます。

西山:アメリカの地方都市の政治腐敗は深刻で、もはや民主主義は機能していません。長らく民主党が勝ち続ける都市、共和党が勝ち続ける都市が多く、地方政府のレベルで変革はほとんど起こらない。ヤングスタウンのような地域では、政治家も産業界の人たちと行動していれば不利益を被ることもないので、現状を維持するマインドが強く働く。経済状態が良ければそれでも良いのですが、悪くなると街がどんどん衰退してしまう。

――オハイオ州は、スイング・ステートと言われ、民主党と共和党の支持率が拮抗している州です。2016年の大統領選では共和党のトランプが勝利しましたが、2008年、2012年は民主党のオバマが勝利しました。歴史的にはどちらの党が強いのでしょうか?

西山:アメリカでは長らく、オハイオを制する者は大統領選挙を制するといわれるように、オハイオの勝敗と大統領選挙の勝敗は一致していました。その中で、白人労働者の多くは労働組合で活動していたため、70年代初頭までは民主党を支持していました。そこから共和党へシフトしたり、民主党に戻ることもあり、キャスティング・ボートを握っていたのです。ただ、どちらの党を支持するにせよ、アメリカの地方都市では先ほど述べた理由なども含め、どちらの党が強いかはあまり意味を持ちませんし、党に対する愛着もあまりありません。

 オハイオ州では、16年の大統領選で共和党のトランプが勝利しましたが、有権者は共和党に票を投じた意識は必ずしも強くない。それよりもトランプに投じたという意識でしょう。白人労働者にとって重要なのは、まわりとの人間関係です。そのなかで、みんながトランプを支持していたから、トランプが勝利した。結果的に、偶然共和党が勝利しただけです。

 オハイオ州の共和党では、16年の大統領選に出馬表明したジョン・ケーシックの影響力が強い。トランプとは違い、ケーシックは移民や福祉に関しては穏健派です。つまり、オハイオ州の共和党主流派は、トランプとはまったく違う考え方なのです。

――決して共和党が勝利したわけではないというのは面白いですね。最後に、本書をどんな人たちに薦めたいですか?

西山:白人労働者の問題は、グローバル化や移民の問題と密接です。ただ、そんなことは他人事として捉えがちですが、身近な政治に大きな影響を与えているのが本書のフィールドワークを通じてわかることです。今後、日本が移民を受けいれるかどうかも含め、地方の問題に興味がある人には、3章、4章を読むだけでも価値があると思います。

  
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