ふだん、じゅうぶん取っている人では効かない?
松永:とはいえ、ビタミンDは悪いものではないのだし、少しでもリスクが減るのならサプリメントを飲んでおこうか、という気持ちになる人もいるでしょう。
佐々木:このメタ・アナリシスにはそれ以上に注意すべき点があります。予防効果はビタミンDの血中濃度が元々低かった人たちでだけ認められ、それ以外の人たちでは認められなかったのです。これは栄養素ではしばしば認められる現象で、その栄養素の体内量が少ない場合にだけ有効で、じゅうぶんな量が体内にある人がさらに取っても、さらなる健康利益はないというものです。
松永:なるほど。
佐々木:ビタミンDは変わった栄養素で、皮膚が紫外線を浴びると皮下でビタミンDが合成されます。それに加えて、魚など食事から取っています。両方の合計量に反映して、血中のビタミンD濃度は変動します。
松永:紫外線を浴びると体内で作られる、というのは、知らない人が多そうです。
佐々木:日本人の食事摂取基準(2020年版)では、紫外線曝露によって皮下で合成されているであろうビタミンDを考慮して、食べる時の目安量を成人で1日8.5㎍と決めました。一方、アメリカは紫外線からの体内合成を考慮せず、必要なビタミンDをすべて食品から取ると仮定しているため、食事摂取基準(DRIs)として1日あたり20㎍の摂取を勧めています。そして、先ほどのメタ・アナリシスで使われた研究に参加していた人たちは、サプリメントとしてビタミンDを1日あたり平均でおよそ50㎍を与えられていました。
松永:日本の目安量が1日8.5μg、アメリカが20μgなのに、サプリメントで50μgとは、ものすごい大量摂取です。
佐々木:栄養素というよりも薬に近い量と考えるほうがよいかもしれません。相当に多くのビタミンDのサプリメントを摂取していた。その割には、感染率はそれほど大きく下がらない。そうなると、そこまでする価値は? と考えざるを得ません。