発電設備導入のための制度
規制を上手く行わないと設備が不足するが、自由化した市場ではピーク時だけ使われる低稼働率の収益を生まない発電設備が老朽化し廃止されても、事業者は新設しなくなり、供給力が不足する。そのため作られた制度が事業者の設備に対し一定額が支払われる容量市場だ。欧州でいち早く導入した英国では入札制度により設備に支払われる価格が決められているが、入札に応じる既存設備がまだ多く、新設に必要とされる額を落札額が大きく下回る状況が続いている(図-1)。
新設設備への支払保証期間は15年なので、数十年利用される発電設備への投資を事業者が躊躇することも新設設備の入札が少ない理由の一つだろう。将来、既存設備の老朽化が進んだ段階では価格が大きく上昇し設備の新設が行われるかもしれないが、不透明だ。制度はまだ試行錯誤の段階と言える。ではCfD制度に基づく非炭素電源の新設で電力設備を賄うことができるだろうか。
電力設備不足は洋上風力で解消?
英国では原子力発電支持が多く、政府は非炭素電源の原発新設に力をいれているが、東芝に続き日立も英国からの撤退を決めた(『東芝、日立が撤退、英国と世界の原子力発電はどうなるのか』)。この結果、残る計画は表‐2の通り、全て中国とフランスの合弁事業体が手掛ける案件になったが、英中関係の悪化により工事中のヒンクリーポイントC原発以降の建設に黄色信号が灯り始めた。
原発の新設が進まないと設備不足による停電の可能性が生じ、さらに2050年の温室効果ガス純排出量ゼロの目標達成も覚束なくなる。そんな中でジョンソン首相が打ち出したのが、洋上風力発電の拡大策だ。英国は北海など風量に恵まれた洋上風力適地が多い。世界一の洋上風力大国だ。英国の導入量(2019年末)990万kWは世界シェアの3分の1を占めている(図-2)。
コストも安い。CfD制度に基づく原発の電気の買取価格は英国政府との交渉で決まるが、再エネの買取価格は入札で決まる。そのCfDの入札結果を見ると、入札ごとに洋上風力の価格は下落しており、昨年9月に結果発表が行われた入札では1MWh当たり39.65ポンドから41.61ポンドだ。2012年価格なので今の価格に調整すると45ポンドから47ポンド程度(1kWh当たり6.2円から6.4円)になる、実際には、不安定電源をカバーする設備費用、送電線増強費用も必要になり、火力、原子力との比較では追加の費用が必要だが、それにしても洋上風力発電の価格は安くなった。
ジョンソン首相は、7年前に「労働党が力を入れている洋上風力設備は役に立たない。シェールガスに力をいれるべきだ」と発言したことがある。ところが、10月6日保守党の会議の席上「2030年に洋上風力設備を現在の目標3000万kWから4000万kWに拡大し、全ての家庭の電気を洋上風力で賄う。サプライチェーンのため港湾設備整備に1億6000万ポンド(約220億円)投入する。英国は風力発電の世界のリーダーになり、石油と言えばサウジアラビアのように風力と言えば英国になる」とスピーチした。現在洋上風力は電力供給の約10%を担っているが4倍に引き上げる考えだ。陸上風力発電設備製造では中国企業が強いが、洋上風力では英国を含め欧州メーカの存在感が高く、太陽光発電と異なり中国に依存しなくてもよい。政府筋は英国製比率を60%と見込んでいる。
ところが、洋上風力発電設備導入を進めると中国に依存することになるとの批判が出始めた。設備製造は欧州なのに、何が問題なのだろうか。設備の重要部品に中国が世界を牛耳るレアアースが使用されているのだ。