出口が見えぬ東地中海の軋轢
トルコは周辺諸国との関係を改善することは可能なのか。筆者はまだ可能な段階と考える。確かに外交関係は悪化しているように見える。しかし、トルコが本格的に交戦した国はシリア以外にはない。
ナゴルノ・カラバフなどで対立するロシアには、経済面で依存度が高い。ロシアは天然ガスの重要な輸入先であり、19年には輸入の33%、20年には12%を占めている。20年は相対的に輸入量が減っているが、それでも依存度は大きい。トルコでの原発開発も、ロシアと共同で進められている。
また、トルコの重要な収入源である観光業に関して、両国政府はコロナ禍で一時的に途絶えていたロシア・トルコ間の旅客機の発着の再開を模索してきた結果、8月1日にロシアからイスタンブール、アンカラへの定期便、さらに8月10日からはアンタルヤなど地中海のリゾート地への定期便が再開された。
加えて、シリア内戦に関して、トルコはシリアと国交を断絶しているため、シリアとの交渉にはどうしてもロシアの仲介が必要となる。こうした諸要因を考慮してもロシアとの関係がこれ以上悪化することはないと思われる。また、内政で国民からの支持を得たいエルドアン政権にとって一番痛いのは他の大国からの経済制裁である。そのため、アメリカやロシアといった大国との関係には気を使っている。
一方でキプロス問題が絡んでくる東地中海の問題は長期化する様相を呈している。南北で分断されたキプロス島北部に位置する北キプロス・トルコ共和国はトルコだけが独立を認めており、この北キプロスを国家とみなすかどうかで領海の範囲が変わり、天然ガス採掘問題に影響を及ぼす。
北キプロスでは10月18日に大統領選が行われ、キプロス共和国(南キプロス)との統一に理解を示す現職のアクンジュ氏を破り、エルドアン政権に近く、あくまで北キプロスの独立を目指すタタール氏が勝利した。
キプロス共和国、ギリシャ、さらにムスリムを揶揄する仏週刊紙シャルリエブドの一連の風刺画掲載をめぐり、非難合戦をしているフランスもトルコの天然ガス採掘を批判しており、トルコおよび北キプロスと、ギリシャなどEU加盟国との東地中海の天然ガス採掘をめぐる対立はさらに混迷しそうだ。
ただ、10月30日にトルコとギリシャの間に位置するエーゲ海を震源とするマグニチュード7.0の地震が発生し、両国で大きな被害が出ている。トルコとギリシャは1999年に両国で起こった地震をきっかけの一つとして関係改善した過去があるので、今回も関係改善の手掛かりとなる可能性はある。
トルコが周辺諸国との関係を改善することは可能なのかについては、まだノーとは言い切れない段階にはあるが、予断を許さない。少なくともエルドアン政権は2023年の選挙に向けて、これまで以上に内政と外交のバランスを見極めることが重要となるだろう。
日本の外交は一般に「静」的な外交と言われる。対照的に「動」的な外交を展開するトルコの動向を注視することは、緊迫する国際情勢の中でどのように地域の安定化に貢献するのか、また、同盟国との協調を維持しつつ、どのように国益を維持するのかについて、重要な示唆を与えてくれるだろう。
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