オトナの教養 週末の一冊

2020年12月4日

»著者プロフィール
ガラパゴスゾウガメ(nicholas_dale/gettyimages)

 つい先日「いよいよこのカード使えなくなったわ」と、記者の妻がぼやいた。銀行のキャッシュカードのことだ。しかも、富士銀行。といっても若い読者には聞き覚えがないだろう。今はみずほ銀行の一部になっている。かく言う記者も親からもらった旧郵政省(現ゆうちょ銀行)のキャッシュカードをいまだに持っている。

 平成の30年間は銀行合併の時代だったと言っても過言ではないが、唯一「無風」とも言える状況だったのが「地方銀行」、それも第一地銀だ。

 都市銀行が16→7(1980~2020年)、第二地銀が71→38、信金462→257、信組484→145と平均すると半減しているのに対して、地銀は63→64に1行増えている。

 しかし、地銀も変わらざるを得ない状況になっている。今後どのような展開が考えられるのか『消える地銀 生き残る地銀』(日本経済新聞出版)を上梓した東洋大学教授の野崎浩成さんに話を聞いた。

 都市銀行の合併が進んだのは、〝バブル経済〟のツケを払わざるを得なかったからだ。バブルに浮かれた乱脈融資の結果、多額の不良債権が生まれ、〝バランスシート・ショック(自己資本の減少)〟に襲われた。結果として、合併して合理化を行うと同時に公的資金の注入をしてもらうことでなんとか延命した。一方で地銀は都銀と比較してバブル崩壊の影響は軽微だった。

 この時とは異なる危機が訪れていると、野崎さんは指摘する。

 「バブル崩壊後の1997年から2003年の危機は不良債権の発生や有価証券の価格低下など、多額の損失負担でした。赤字決算が自己資本を減らして破綻リスクが発生します。いわば〝サドンデス〟におかれるので非常に危機感は高いわけです。

 一方で、現在は収益力の低下によって少額の損失が出続けている状況です。じわじわと経営体力を削っていく〝ゆでガエル〟型と言えます。超低金利環境が20年続き、収益力が漸減してきたところでマイナス金利が導入されたことで〝湯温〟は上昇しましたが、サドンデス状態に比べると、経営陣の危機感はさほど切迫したものではないのかもしれません」

 野崎さんは、15年ごとに銀行業界に新しい変動がやってくると分析している。1988年~2003年は規制緩和による自然淘汰と、バブル後処理の時代、2004年~2018年は回復後の安定期、そして2019年~2033年はフィンテックなど新しいテクノロジーの登場と、第2の自然淘汰が訪れると見ている。

 第2の自然淘汰とはどのようなものか。端的に言えば「不要な銀行があぶり出される」ことだ。つまり、従来型の銀行業務を続けていれば不要な銀行として淘汰されてしまうが、自分たちの「ミッションを再定義」して環境変化に対応できるかどうかという「適者生存」が銀行にとって生き残りへの道となる。

 どのような「適者生存」が行われていくか見ていく前に、不要な銀行とはどのようなものか確認しておこう。

 「バブル崩壊後の不良債権処理において、検査官の態勢が整わなかったため、99年に「金融検査マニュアル」が作られました。これがゲームチェンジャーとなって、以降の貸し出しが厳格化されました。要するに、可能性あっても、グレーだと融資することができなくなったのです。結果的に、優良な事業者に融資が集中して、金利引き下げという過当競争が生まれました。

 これによって銀行から『情報生産機能』が失われてしまいました。情報生産機能とは、要するに〝目利き能力〟です。先輩と一緒に現場へき、場数を踏んで財務諸表からだけでは読み取ることのできない定性情報を読み取ってくる。こうした〝知の伝承〟ができなくなってしまいました。

 昨年末に検査マニュアルは廃止されました。今後は、少々馬鹿げていると言われても、与信コストを上げる、つまり、ある程度の失敗を許容しつつ、これはという事業主には融資していくことも必要になると思います」

 「もう一つは、経営側の責任とも言える問題です。『金融機関の店舗設置等の取り扱いについて』という通達が1997年に廃止されたことによって、地銀は他地域に店舗展開をすることができるようになりました。結果として隣県になどに進出して、こちらでも金利引き下げによる過当競争をしてしまいました。広域に展開することで、質より量に走り、収益額は増えるが、収益率は悪くなるという結果になりました」

関連記事

新着記事

»もっと見る