親たちはこどもによく「本を読みなさい」と言う。習慣として本を読むことで多方面に学びが蓄積され人生を豊かにすること、また長く続けることに意味があることを経験から知っているからだ。同様に、身体を使って暮らし続けることこそ、100年間の人生のクオリティをダイレクトに底上げしていくことも伝えていくべきだろう。
そこが疎かになると長くなった寿命の価値がむしろ大きく損なわれる、という現実については、実は戦後生まれが高齢になる現代に初めてリアルに見えてきたのではないか。「仕事とは、身体を動かさない時間」となってしまったのはつい最近のことだからだ。身体を使う暮らしづくりは、緊急ではないけれど最重要なことだと意識する必要がある。
新鮮な言葉となった「さようなら」
目の前のことに忙殺される世代にとって、「緊急ではないが重要なこと」を実行するのは難しい。緊急事態宣言でできないことが増えている今こそ、10年、20年よりもっと先に自分がどうありたいか考える時間をつくってみたい。
最後にひとつ。
実家に介護を済ませた帰り、玄関で別れ際に母はいつも「ありがとうね。さようなら」と言う。その言葉にわたしはいつもどきっとする。「さようなら」と言うことも聞くことも、最近ほとんどないからだ。SNSでいつでもどこでも誰とでも繋がれるようになった時代、別れの挨拶は「またね」となる。未来とは続くものだと想像しながら、でもいつ終わってもおかしくないのが命である。コロナ禍でそうしたリアルな想像をする中、生きることの難しさや愛しさを改めて捉える昨今である。
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