2024年12月6日(金)

World Energy Watch

2021年2月25日

水素に向かう世界

 日本は早くから水素に注目し、豪州の褐炭からの水素製造を豪州政府とともに官民あげて推進してきた。褐炭火力発電設備の老朽化により褐炭の消費量が減少している豪州では、大きな輸出品目石炭に代わる製品として水素を推進したい意向がある。日本は、化石燃料輸入を水素で代替したいので、褐炭から水素を製造し、液化した上で輸入したい。

 日本など東アジアの国と異なり欧米諸国は水素にあまり関心を示してなかったが、2019年10月EUが2050年ネットゼロに踏み切ったことにより事情が変わった。それまでの90年比80%削減目標では、水素まで利用しなくても達成可能と考えられていたが、ネットゼロには水素が必須になった。化学、高炉利用の製鉄、航空機、大型トラックなど電気の利用が難しい分野では水素が解決策になる。同じくネットゼロを目指す米バイデン政権も水素利用を考えざるを得なくなった。

 21世紀は水素の世紀になるだろう(『21世紀を水素の世紀にするカギは電気、気候変動対策の主役に躍り出た水素を考える 』)。EUは水素戦略を立て、2030年8000万kWの電気分解装置を域内、北アフリカなどに導入する計画を立てている。豪州で再エネからの電気を主体に水素を製造し輸入する計画もある。サウジアラビアでも企業連合による水素製造計画が明らかになっている。シェル、イネオスなど巨大国際企業が水素、アンモニア製造プロジェクトを発表している。電気分解装置のコスト引き下げなどに欧米は巨額の資金を投入する。日本は水素製造では競争できないだろう。

 日本では2030年に300万トン、2050年に2000万トンの水素利用が想定されているが、その供給については触れられていない。豪州褐炭からの水素製造パイロットプロジェクトでは、褐炭160トンから水素3トンが製造される。将来収率は向上するだろうが、豪州からの供給量は年間数十万トンだ。残りの水素を日本で製造する場合には、再エネ電源だけでは無理だ。製造量、電解装置の設備利用率を考えると安定的に大量の非炭素電源が必要になる。欧州で議論がある原子力の利用を考えざるを得なくなるが、日本政府は触れていない。


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