英国のシンクタンクIISS(国際戦略研究所)のギーゲリッチが、8月19日付けフィナンシャル・タイムズ紙掲載の論説‘Germany must end the confusion over security and defence’で、メルケル後のドイツは、戦略的思考に基づいた安保・防衛政策に改め、権威主義的な大国である中国から自由主義的な国際秩序を守るために、軍事的な面を含む貢献を強めるべきである、と論じている。
論説のポイントをごくかいつまんで紹介すると次の通りである。
・ドイツ人は国際問題について、曖昧な議論を通じて解決し得ると誤解しており、国際問題が国益の衝突であることを直視できずにいる。
・ドイツでは、米国と中ロとの間である程度の等距離をとるべしとの主張が目立つ。
・ドイツ人は、軍事力とパワーポリティクスを、今や存在しない、あるいは無視し得る古い秩序の残滓と扱いがちで、それゆえ国家目標を欠いて来た。
・安保・防衛については、ドイツの次期政権はメルケル時代の因習を放棄すべきだ。過去のドグマにしがみつくのではなく、戦略的思考を採用するようにすべきだ。
・中国とロシアといった修正主義的で抑圧的な大国の再台頭が、戦後のドイツの安全保障と繁栄の基礎となった国際秩序を脅かしているので、戦略的思考は必要かつ緊急である。
・西側の利益への最も重要な挑戦はインド太平洋で発生するだろう。ドイツの議論に欠けているのは、欧州の防衛はインド太平洋と結びついているという認識である。
ギーゲリッチ氏は、元ドイツ国防省職員であり、ドイツ人の安全保障気質を良く知っている。現在は英国IISSで働いており、なおさらドイツと他国の安保観の落差を感じるのであろう。上記の論説では、メルケルの外交・安保政策を厳しく批判している。