2024年4月25日(木)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2021年12月9日

 ウイルソン・センター(在ワシントンのシンク・タンク)の後藤志保子が、台湾の環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的協定(CPTPP)への加入申請は単なる経済政策ではなく、生き残りを賭けた挑戦であるという一文を11月19日付のEast Asia Forumに投稿している。

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 この論説は、台湾にとってCPTPP加入は単に経済政策であるだけでなく、生き残りを賭けた政治的課題であり、CPTPP参加の11 カ国はその加入を承認することによって国際社会の台湾に対する支持を明確にできると論じている。

 米国と有志の諸国には台湾を軍事的に防衛する用意があるのに比して、経済面で台湾を守るコミットメントに欠けるところがあるとして、その懸隔の大きさを強調している部分には違和感があるが、全体の論旨は首肯し得るものである。緊迫する情勢にあって、台湾にとっては正しく生き残りを賭けた挑戦に違いない。 

 バイデン政権にCPTPP回帰の意思がないことが明確になったことには失望させられる。この地域における米国のプレゼンスの強化が必要とされているという事情だけではない。中国と台湾のCPTPP加入申請を適切に処理する上でも米国の回帰は重みを持つに違いないだろう。

 貿易促進権限(Trade Promotion Authority)が7月1日に失効したという事情、あるいは議会では民主・共和両党とも大きな貿易協定には気乗り薄であるという事情があるにせよ、米国の経済安全保障を重視し貿易協定に消極姿勢を崩さないバイデン政権がそういう事情を招いた大きな要因であろう。 

 11月16日~18日に来日したキャサリン・タイ通商代表は「(TPPは)5年以上前に議論されたことだ。それよりも、いま直面している課題に焦点を当てなければならない」と述べたが(言い訳のようにも聞こえる)、インド・太平洋でのCPTPPとは別の新たな経済の枠組みを提起することが念頭にあるようである。 モノの貿易は放棄し、デジタル貿易分野などでのルール作りが検討されているらしい。 

 バイデン政権は去る6月に、2016年以来初めてとなる台湾との貿易投資枠組み協定に基づく対話を行った。いずれ自由貿易協定(FTA)に行き着くものかどうか、今後の展開は不明であるが(台湾は今年1月からかねて問題とされて来た米国の牛肉と豚肉の輸入制限の緩和に踏み切った)、米国は台湾との貿易関係の強化を図り、台湾がこの地域の貿易協定のネットワークから取り残されるリスクの軽減に一役買うべきであろう。

   
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