パネルには有害物質も含まれているが、有用な金属をリサイクルすれば大きな市場が生まれる可能性もある。IRENAは50年にパネルのリサイクルにより150億ドル(1兆7000億円)の市場が生まれるとしており、廃棄ではなくリサイクルする方法もありそうだが、現状ではコスト面から難しい。
昨年12月に米国エネルギー省は、アリゾナ州立大学の太陽光パネルのリサイクル技術の研究に48万5000ドル(6000万円)の助成金支出を発表した。米国のソーラパネル製造業者ファーストソーラーもこの研究に資金を提供すると発表している。
米国では、現在パネル1枚のリサイクルに20ドルから30ドルの費用が掛かるが、リサイクルで取り出せるアルミ、粉砕されたガラスなどの価値は約3ドルとされている。埋め立ての廃棄費用は1ドルから2ドルとされ、大半のパネルは廃棄されている。
アリゾナ州立大学の技術では再利用可能な化学物質を使用し、銀、錫、鉛、銅、シリコンを取り出すことが可能だ。2年間で商業化を目指す予定だ。ただし、この技術でも取り出せるものの価値は現状15ドルとされ、費用を下回る。リサイクルを義務付ける法制度が必要との声がある。
リサイクルによるエネルギー安全保障も重要
リサイクルも経済面からは簡単ではないが、パネルの海外依存率が上がり続け、主として中国製パネルの供給に依存している日本にとっては、リサイクルにより資源の再利用を進めパネルの国産化比率を上げることは、エネルギー安全保障の観点からは重要だ。
パネル供給における国内生産比率は、13年度42%だったが、19年度18%、20年度15%、21年度第1四半期13%、第2四半期10%と時を追い下がっている。今輸入比率は9割だ。
これから本格化する風力発電事業でも中国メーカーが供給の主体になる可能性が高い。投資者にとっては設備の価格が重要であり、どこの国で作られたのかは問題ではない以上、中国製が再エネ市場を席捲する可能性があり、結果中国がエネルギー覇権を握ることになる。
パネルのリサイクル事業では国産化による地域での雇用も期待できる。太陽光パネルだけでなく、大きな導入が目論まれる風力発電設備の廃棄もやがて問題になる。リサイクル技術の開発により、再エネ設備大量廃棄の時代を乗り切り、エネルギー安全保障にも寄与する新しいビジネスモデルを生み出すことが必要だ。
地球温暖化に異常気象……。気候変動対策が必要なことは論を俟たない。だが、「脱炭素」という誰からも異論の出にくい美しい理念に振り回され、実現に向けた課題やリスクから目を背けてはいないか。世界が急速に「脱炭素」に舵を切る今、資源小国・日本が持つべき視点ととるべき道を提言する。
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