2024年4月25日(木)

都市vs地方 

2022年3月24日

意外!日本がトップに評価された項目とは……

 表2の項目に基づいた日本の評価結果は、表3の通りである。表3ではベストファイブの国と日本の各項目における評価順位を示している。ユニセフの評価では、各項目を個別にランキングし、そのランキングの平均をとって最終ランキングの基準としている。

(出所)各項目中の評価対象41か国の中でのランキングを表す。Gromada, Anna; Richardson, Dominic (2021). Where Do Rich Countries Stand on Childcare?, Innocenti Research Report .p.7,” FIGURE 1: League Table – Indicators of national childcare policies”より筆者翻訳作成 写真を拡大

 表3を見ると2つのことが分かる。上位の国々といえども、すべての項目で高いランキングをそろえているわけではないということである。1位のルクセンブルクにはランキングの内訳で1位と評価された項目は1つも含まれず、適正費用に関しての評価のランキングは16位とベストファイブの国々の中では最低である。逆に言うと、各国の中でどの項目に重点が置かれているかは異なるということである。

 第2に日本の評価項目に関して教育アクセス、教育の質、適正費用に関してはいずれも20位から30位にランキングされており、国際的に芳しい結果とはなっていないことである。しかし、意外なことに育児休暇に関しては評価対象となった41カ国中で1位にランキングされている。このことを素直に解釈するならば、「日本はユニセフが認めた先進国中でもっとも育児休暇に手厚い政策をとっている国」と評価されることになる。

 日本の育児休暇政策が世界でトップの水準であるということは、われわれの感覚とはかなり異なる結果であると思われる。子育て政策の先進国と言われる海外、特に北欧などの政策を見聞すると、それらの国々の方が育児休暇の政策は充実しているように感じる。いったいどのような根拠指標と評価プロセスに基づいて日本の育児休暇制度がトップであると評価されたのであろうか。

 その理由を知るために、育児休暇の評価指標をより深く見ていくこととしよう。表4はユニセフ報告書の付表に示された、育児休暇項目に関する評価の根拠資料である。

(出所)Gromada, Anna; Richardson, Dominic (2021). Where Do Rich Countries Stand on Childcare?, Innocenti Research Report .p.27,” Appendix: indicators used in the League Table”より筆者翻訳作成 写真を拡大

 表4を見ると日本がトップと評価された理由がわかる。母親の育児休暇取得可能週のフルタイムに勤務に対する割合(%)を見ると、日本は35.8%と国際的にとびぬけて高いわけではない。総合ランキングの高い上位の5カ国では40%台~60%台と日本より高い割合で取得可能な制度が用意されていることが分かる。しかし、父親の育児休暇取得可能週のフルタイム勤務に対する割合(%)を見ると、日本は30.4%と国際的に高い水準を実現している。

 日本の育児休暇が「制度上」世界トップランクとされているのは男性の育児休暇取得制度のためであるということが分かる。同時に、ここからこの評価項目は「制度が用意されているか」という観点からの評価であることに気づかされる。したがって、実際に日本の働く親たち、特に父親が世界トップレベルの育児休暇を取得して子育て政策の恩恵を享受しているというわけではない。

 確かに、先進国の子育て政策評価の観点からすれば、制度が用意されているかは誤った評価の観点とは言えない。しかし、日本のように制度は存在するが、男性の育児休暇取得率が極めて低い現状を踏まえると、国際ランキング1位の評価は誤解を生む可能性を危惧させる。いずれにしろ、国際ランキング1位の項目があるとはいえ、日本の総合ランキングは21位であるので、もし育児休暇の実際の取得率を加味して評価されれば、日本のランキングは大きく下落するであろうと予想される。


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