ちなみに、肥料の消費量1位の中国(24.6%、以下いずれも2018年時点)、2位のインド(14.3%)、4位のブラジル(8.9%)はロシアに対する経済制裁に否定的で、経済的なつながりを保とうとしている。大消費国で制裁に加わったのが消費量3位の米国(10.6%)のみというのは、化学肥料の国際相場に限って言うなら、幸いなことかもしれない。
昨年から商社やJA全農が原料確保に奔走
日本においては、目下必要な春肥の調達が済んでおり、今は肥料価格の改定時期でもないので、農業現場が大騒ぎ……とはなっていない。そもそも化学肥料は21年夏から〝全面高〟と言っていい状況にあった。
国内のプライスリーダーは流通量の55%(農水省調べ)を握るJA全農であり、21年の秋肥(同年6月から適用)、春肥(同年11月から適用)と2回続けて大幅な値上げをしてきた。
農家や商社、JA全農が昨年から肥料の確保に躍起にならざるを得なかったのは、世界的な需要の高まりのせいだ。肥料の需要は発展途上国で伸びている。加えて、大豆やトウモロコシ、小麦などの穀物相場の値上がりで、米国やブラジルといった農業大国で肥料価格が上がった。
中国の輸出規制の方が痛手
原料産出国である中国の政策変更も大きかった。日本は窒素肥料である尿素の37%(19年度)を、リン酸アンモニウムに至っては88.7%(20年)を中国から輸入している。
その中国が環境保護のため、製造過程で大量の二酸化炭素(CO₂)を放出する肥料工場の取り締まりに乗り出したのだ。国の基準を満たしていない工場の操業を止めたため、製造量が減った。国際的な原油価格の値上がりが追い打ちをかけ、製造と輸送のコストが上がり、肥料価格が跳ね上がってしまった。
農家が肥料価格の高騰に苦しむ事態になったため、中国は行き過ぎた環境政策を軌道修正しつつ、自国で必要になる肥料の安定確保と備蓄に熱心になっている。輸出を締め付けるため、尿素やリン酸肥料など化学肥料関連の29品目について21年10月、輸出前の検査を始めた。
あくまで検査の強化という建前ながら、輸出量を大幅に絞っており、実質的な輸出規制になっている。そのため、商社やJA全農は慌てて輸入先を切り替えてきた。
「モロッコのリン鉱石の埋蔵量は世界一で、今はモロッコから輸入している」(農水省技術普及課)
ただ、リン鉱石を加工したリン酸アンモニウムは長期保管に適さず、お隣の中国から入手できなくなり、遥か彼方のモロッコから運ばざるを得ないのは痛手だ。