避けられない値上がり基調に肥料節約の対策を
今回の値上がりは08年以来の高騰として騒がれており、この波がいずれ収まるにしても、肥料の値上がり基調は避けがたい流れになっている。資源は基本的に有限であり、人口増加と農業の近代化が世界で進む以上、肥料の需要は増え続けるはずだ。そうなると、化学肥料を節約し、ほかの肥料や堆肥に置き換えるという対策が必要になる。
秋田県と埼玉県に農場を持つ大規模農業生産者の宮川正和さんは、以前から堆肥を活用してきた。計100ヘクタール超でネギや子実トウモロコシ(実だけを収穫するトウモロコシ)などを生産し、「昨年から肥料の確保に努めていて、当面必要な分はすでに確保している」と肥料高騰に手堅く対応する。
さらなる値上がりの可能性がある塩化カリに対しても、耕畜連携でトウモロコシを畜産農家に納める代わりに牛糞堆肥をもらい受けていることを安心材料としている。牛糞堆肥に含まれるカリは、化学肥料と同等の効果を持つ。
最近、ほかの有機質肥料の調達にも乗り出している。「埼玉の農場では、食品残渣を使った肥料を相当量確保した」(宮川さん)という。
農水省は21年5月末に肥料代節約の指南をする「農業者の皆様へ」というページを立ち上げた。安価な銘柄への切り替えや土づくり、土壌診断などを提案している。
日本に限らない話だが、過剰な施肥が肥料の需要を必要以上に高めてしまっている。農地に養分を過剰に与えると、地下水や土壌など環境に負荷をかけるし、作物に病害が生じやすくなる。特に国内ではリン酸過剰の農地が多く、土壌病害が深刻化している。肥料代も無駄にかかるので過剰施肥に良いことはない。
そうではあるが、農家は三要素(窒素、リン酸、カリ)を同じ量ずつ含む配合肥料をよく使う。理由は安いからで、多くの農地にリン酸をますます余計にため込む結果になっている。
土壌診断をして必要な成分だけを補うのが望ましいけれども、国内の土壌診断は海外に比べて高コストになりがちだ。肥料の販売者が土壌診断まで手掛ける、利益相反が起こりやすい状況が一般的という問題もある。
課題が多い一方で、農家自身が土づくりを考える組織は全国にいくつも存在する。たとえば、農家が土壌学者とともに土と肥料について学べる組織として「全国土の会」がある。北海道に10の支部を持つSRU(Soil Research Union)は海外のコンサルタントの指導を仰ぎつつ、農家自らが科学的な土づくりを学び、実践している。
今回の高騰を機に、こうした事例に学びつつ、化学肥料の節約に本腰を入れるべきではないだろうか。