2024年11月22日(金)

#財政危機と闘います

2022年4月6日

 一方、輸入企業には輸出企業とは円高円安で正反対の現象が起きる。いま、米国で100ドルする商品を日本に輸入して販売する企業を考えてみよう。1ドル=100円の場合、日本では1万円で販売することになる。一方、1ドル=50円の円高になったとすると、ドル価格は100ドルで変わらないとしても日本円では5000円と、米国製品の価格が下がるので輸入が増えることになる。そこで、例えば6000円で販売することも可能だ(それでも元値の1万円より4000円も安い)。このとき、この輸入企業の売り上げは円高前よりも1個当たり1000円売り上げが増えることになる。

 逆に1ドル=200円の円安になったとしよう。このとき、現地価格は100ドルで不変だとしても日本円での価格は2万円になってしまい、米国製品の価格が上昇するので、輸入は減ってしまう。しかも、一気に販売価格が倍になってしまっては売り上げが急減するのは必至なので、この企業は日本での販売価格を15000円にするだろう。このとき、1個当たり5000円の損が発生してしまう。

 このように、円高になれば日本からの輸出は減り、海外からの輸入が増えるのでマクロ経済にはマイナスの影響、円安になれば日本からの輸出が増え、海外製品の価格が上昇するので輸入が減り、マクロ経済にはプラスとなる。

流出し続ける日本の富

 では、現在の円安は日本に確実に富をもたらしているのだろうか。そのことを確かめるために、交易条件と交易利得の動きを見てみる。

 交易条件とは、具体的には、輸出物価指数と輸入物価指数の比で表され、輸出品1単位と交換で獲得できる輸入品の量を示す、貿易での稼ぎやすさを示す指標ともいえる。輸出物価が上昇したり輸入物価が下落したりして交易条件が改善すれば(大きくなれば)、安く輸入して高く輸出することが可能となるので、貿易条件は改善する。一方、輸出価格の下落や輸入価格の上昇で交易条件が悪化すれば(小さくなれば)、貿易条件は悪化している。

 つまり、原材料や海外に比較優位のある製品を安く輸入でき、日本製品をなるべく高く輸出できれば国内に資金が入りやすくなり、日本国内に富が蓄積される。逆に輸入価格が上昇すれば、これまでと同じ量の原材料や海外製品の輸入に対してより多くの資金を支払わなければならず、日本の資金が海外に流出してしまう。

 交易条件の推移を見ると、足元では急速に悪化し、しかも100を割っているので、輸出量1単位と交換して獲得できる輸入量は1単位未満となっている。つまり、日本の競争力は急速に低下し、日本の富が海外に流出しているのだ。

(出所)内閣府経済社会総合研究所「国民経済計算」により筆者作成 写真を拡大

 このことを、交易利得(損失)で確認してみる。交易利得(損失)とは、交易条件が変化することで、ある国の国民の実質購買力が海外へ流出しているのか、あるいは海外から流入しているのかを表す。海外から購買力が流入している場合は交易利得、海外へ流出している場合は交易損失という。

 交易利得の動きを見ると、足元ではコロナ危機が始まった2021年4~6月期以降、交易損失が発生している。確かに、日本から海外へ日本の富が流出している。つまり、現在の円安局面においては、円安のメリットが発生しておらず、かえって日本は貧乏になっている。これは円安のデメリットを強調する昨今の論調にも合致する。

(出所)内閣府経済社会総合研究所「国民経済計算」より筆者作成 写真を拡大

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