5月9日に実施されたフィリピンの大統領選挙では、かつての独裁者マルコス元大統領の長男であるフェルディナンド・マルコス・ジュニア(愛称ボンボン)が3100万票以上を獲得、約1500万票に留まったレニー・ロブレド副大統領に圧勝した。両者は2016年の副大統領選でも対決しており、この時はロブレド氏が勝利をおさめていた。副大統領選では、ボンボンとペアを組んだ、ドゥテルテ大統領の長女サラ・ドゥテルテが、こちらも圧勝した。
この結果に、欧米や日本のマスコミは、厳しい批判を浴びせた。ボンボンを選んだことは、マルコス・シニアの独裁を知らない若いフィリピン人が増え、フィリピン人は民主主義に見切りをつけて権威主義に回帰しようとしていることを示している、などと指摘する。
確かに、正副大統領として独裁者や強権的な人物の子が選出されたことは不安を掻き立てる。しかし、今回の選挙でフィリピンの民主主義がダメになったと判断するのは早計である。
選挙は概ねスムーズに行われた。フィリピンの有権者は約6750万、今回の投票率は8割を超えると見られ、そうした真っ当な選挙においてボンボンの得票数は3100万を超えているのである。
ボンボンが圧倒的な支持を集めたのは、フィリピン人の支持の高いドゥテルテ大統領のインフラ計画を継続すると言ってきたこと、北部を地盤とする自身を補うように南部を地盤とするサラ氏(父ドゥテルテの支持率は極めて高い)とペアを組んだことが大きいと思われる。
敗北したロブレド氏は、支持者に対し自身の敗北を受け入れるよう訴えている。ロブレド氏は、選挙プロセスの正統性に疑問を投げかけるのではなく、SNSを駆使したディスインフォメーション――ボンボン陣営は父マルコス時代の「黄金時代」を強調し独裁の負の側面を隠した――のようなことと時間をかけて闘っていくとしている。また、ロブレド陣営は草の根運動を展開してきた。フィリピン流の民主主義の土壌が失われていないようにも見える。
むしろ、独裁指向よりも、ボンボンの統治能力が心配であろう。同氏は大統領選の討論会から逃げ回り、まともな政策を提示していない。