安倍氏の評価は若者では明確
安倍氏の安全保障政策の正しさをデータで説明する能力は筆者にはないので、国民が国葬をどう評価しているかについての一つのデータを示しておきたい。図1は、朝日新聞が9月10~11日に行った世論調査で、安倍元首相の国葬実施について年齢別に賛否を聞いたものである。
図に明らかなように、18歳から29歳での賛成は58%だが、70歳以上では26%と、おおむね年齢が若いほど賛成が多くなっている(全体での賛成は38%)。
なぜかと言えば、アベノミクス時代に雇用が改善し、特に若年層の雇用が改善したからだろう。図2は2010年から現在までの年齢別の失業率を示したものである。
第2次安倍内閣が12年12月に発足した時、12年の平均失業率は4.3%だった。それが、新型コロナウイルス感染拡大前の19年には2.4%にまで低下した。特に15~24歳の若者の失業率は8.1%から3.8%にまで低下した。
新卒一括採用で、最初の仕事が恵まれないと、ずっと恵まれないままになるという日本の雇用慣行では、若者の雇用は長期的に重要である。若者にとってみれば、安倍氏は、自分たちの雇用を良くしてくれた首相である。
もちろん、中高年の雇用も良くなっているのだから、評価がもう少し高くなっても良いのではないかと思うが、中高年からはあまり支持されていない。ただし、40~49歳の国葬賛成が多いのは、就職氷河期世代にも、アベノミクスの長期にわたる雇用改善の効果が少しは届いたからかもしれない。
また、若者は、子ども時代、いじめっ子、いじめられっ子を観察していた記憶が鮮明で、大人しくしていればいじめられないという安全保障理論に賛同できない人々が多いという側面もあるかもしれない。
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