2024年4月24日(水)

世界の記述

2022年11月8日

デフレ慣れした日本人のツケ

 言葉や文化は長い歴史の中で培われてきたもので、簡単に変えられるものではない。だが、経済は違うだろう。取材したすべての外国人観光客に共通していた意見は、「安いニッポン」だった。特に、平均年収の上昇率を見ても、過去20年間で数百万円アップしている国もあり、彼らの印象としては、日本が安く感じるのも当然のことだ。

 実際、筆者も日本に来るたびに、飲食の安さには驚くが、ここ数年、その安さに不安を感じるようにもなっている。確かに、外食が異様に高く、国民がランチでサンドイッチやケバブしか食せないフランスのような国に比べれば、まだマシではあるだろう。

 だが、日本は深刻なデフレ状況にあることは、肝に銘じておく必要がある。9月12日に配信した『頑張って貧しくなる日本 海外の現場から見える衝撃』の中でも触れたが、日本人は「デフレ慣れ」したことで、長年のインフレ時代を乗り越えた外国人の生活感覚とは大きく異なる。

 米国の賃金上昇率は、2000年には3万5870ドル(約527万円)だった平均年収が、21年には5万3229ドル(約782万円)にまで上がっている。一方の日本は、同時期に461万円から433万円へと減少を経験している、世界でも数少ない国のひとつだ。

 実際、その生活感覚はどうなのか。羽田空港から米国に帰国しようとしていたエミリーさん(19歳)は、シカゴ空港で働く女性だという。彼女は、「日本旅行は、高く感じなかった」と言った。一体、どれくらいの給料をもらっているのか。

 「私の時給は、17ドル(約2500円)です。1日10時間を週3日間働いて、月にだいたい2000ドル(約29万円)です。今回はドル高もありましたが、日本は全体的に米国より安く、金銭面での苦労を感じませんでした」

 この現象は、米国人に限ったことではない。フランス人も、2000年には平均年収が2万6712ユーロ(約390万円)と日本人よりも低かったが、21年にはその額が3万9971ユーロ(約584万円)へと上昇。日本人のそれをはるかに超える水準になった。

 日本は、「アベノミクス」という言葉が揺れた時代、世界はインフレとともに経済力を増し、国民は苦しむ時期を乗り越え、生活レベルの向上を達成した。一方の日本は、格安競争ばかりに明け暮れ、結局は国民がデフレのツケを払っているのではないだろうか。

 3年ぶりに香港から来日したカーメンさん(29歳)は、「香港ドルが強くなり、日本はもう高い国とは思わない」と顔をほころばせ、こんなことを口にした。

 「何回か日本に来ていますが、毎回来るたびに、日本人が不親切というか、意地悪になっているような気がするのです。経済不況の影響なのか分かりませんが、とても残念です」

 低迷を続ける日本経済が、日本人の心の貧しさにつながっていることは間違いないだろう。このような現状を、日本人はどう感じているのか。後編は、日本人が見る訪日外国人客と外国に対する胸の内を紹介したい。

 
 『Wedge』2022年11月号では、「価値を売る経営で安いニッポンから抜け出せ」を特集しております。全国の書店や駅売店、アマゾンでお買い求めいただけます。
 バブル崩壊以降、日本の物価と賃金は低迷し続けている。 この間、企業は〝安値競争〟を繰り広げ、「良いものを安く売る」努力に傾倒した。 しかし、安易な価格競争は誰も幸せにしない。価値あるものには適正な値決めが必要だ。 お茶の間にも浸透した〝安いニッポン〟──。脱却のヒントを〝価値を生み出す現場〟から探ろう。

   
▲「Wedge ONLINE」の新着記事などをお届けしています。


新着記事

»もっと見る