2024年4月21日(日)

#財政危機と闘います

2022年11月22日

 図5により、日本経済の実力を示す潜在成長率の推移について見てみると、足元では0.6%と1%にも満たないことが分かる。

(出所)内閣府「月例経済報告」GDPギャップにより筆者作成 写真を拡大

 残念ながらこれが現在の日本経済の実力なのだ。内閣府の推計なので、政府公認とみてもよいだろう。

 ただし、財政出動原理主義の立場からは、財政出動が長期的な成長につながらないとしても、財政出動を繰り返し行うことで短期的な成長を積み上げていけば、結果的には長期成長になるとの反論も聞こえてきそうだが、日本の経済成長率が長期的に下方屈折してきたという現実(図4)と、財政出動すればするほど財政が悪化するので財政出動の余地がなくなり、いつかは財政出動の自転車操業も終わりを迎えると指摘しておけば十分だろう。

 さらに図5を見ると、潜在経済成長率をけん引しているのは全要素生産性であることが分かる。つまり、日本経済の実力を上げたければ全要素生産性を上げるほかなく、そのためには需要を積み増すのではなく、資本の質(省力化投資、DX投資)、労働の質(リスキリング)、経営の質(経営者の能力の向上、雇用制度の見直し)の向上だけではなくイノベーションが起きやすい経済・社会環境に変革していく必要があるだろう。

アニマルスピリッツを取り戻せ

 最後に、政府による積極的な財政出動も賢い政府支出も結局は政府は民間よりも賢く行動することができるとの社会主義的な発想に基づいていることを指摘しておきたい。

 もし、政府が民間よりも賢く行動できるのであれば、民間の自由な行動、創意工夫、切磋琢磨、アニマルスピリッツに基礎を置く資本主義は疾うの昔に地球上から駆逐され、現在、世界には社会主義体制の国しか存在していないはずだ。しかし、現実は異なる。世界は市場経済で覆われている。時代背景を追い風に、どんなにマルクス経済学が人気を博そうと、政府が主役の社会主義では私たちは豊かになれない。

 現在のように、円安が進行している間は企業利益が増加して日本企業が復活したかのような錯覚を覚えるが、これは一時的な現象にすぎない。しかし、日本の現実は、国民は給付を欲し、企業は補助金を求め、労働組合は闘争を放棄し、政府への依存を強める一方である。

 給付金まみれになった家計は自助努力をやめ、補助金漬けになった企業はアニマルスピリッツを捨てた。政府が肥大化するわけだ。

 私たちは、所詮は他人のカネを財布から抜き取って別の他人の懐に移すだけの政府の介入ではなく、自助努力により、産業構造の転換や競争力の改善を実施すべきだと思うが、読者の皆さんはどう考えるだろうか。

 
 『Wedge』2021年5月号で「昭和を引きずる社会保障 崩壊防ぐ復活の処方箋」を特集しております。
 2008年をピークに、日本の総人口は急降下を始めた。現在約1億2500万人の人口は、2100年には6000万人を下回り、半分以下となる見込みだ。人口増加を前提とした現行の社会保障制度は既に限界を迎えている。昭和に広げすぎた風呂敷を畳み、新たな仕組みを打ち出すときだ。
 特集はWedge Online Premiumにてご購入することができます。

   
▲「Wedge ONLINE」の新着記事などをお届けしています。


新着記事

»もっと見る