40年間稼働すると発電量は約2800億kWh。CO2削減量は、2億1000万トンになる。安定的に発電する設備でCO2を大きく削減するメリットは大きい。消費者負担も必要ない。
仮に、100万kWの石炭火力を石油火力に転換すれば、年間百数十万トンのCO2が削減可能だ。転換後20年間使用する前提で約3000万トンの削減が可能になる。例えば、転換費用に300億円必要とし、すべて温暖化対策費用と考えても削減コストはCO2 1トン当たり1000円だ。消費者は、電気料金を通し設備投資額を負担する。
さらに、省エネが進んでいない途上国でエネルギー効率が悪い設備を改善すれば、あまり費用をかけずにCO2を削減可能だ。温暖化に関する国際合意パリ協定でも海外での排出削減事業が認められている。地球規模の問題である以上、地域で効率が悪い取り組みを行うよりも、広範囲で費用対効果の高い削減方法を選択するのが理に適っている。地球規模の問題で「カーボンハーフ」などという地域の目標を掲げ選択肢が少ない政策を練ると費用対効果は悪くなる。
エネルギー安全保障を考えるのは国
1973年の第1次オイルショック以降、エネルギー安全保障は50年ぶりに大きな転換点を迎えている。73年時点では日本の発電量の約8割を石油火力が担っていた。脱石油を迫られた日本を含む先進国は、原子力、石炭、天然ガスへエネルギーの多様化を進めた(図-4)。
2011年の東日本大震災後、原子力発電の供給力が低下し、石炭、液化天然ガス(LNG)の供給量が増える一方、再エネ設備の増強もあった。しかし、代償を伴った。一つは、化石燃料への依存度の上昇であり、もう一つはFITによる電気料金の上昇、消費者の負担増だった。
いま、ロシアのウクライナ侵略により欧米日は、脱強権国家政策を進めている。脱ロシアは当然として、脱中国も必要になる。欧米は脱中国の具体策の用意を始めた。現状で日本が採れる選択肢は多くはない。原子力の活用を含め、エネルギー安全保障政策、温暖化政策を考えることになる。
安全保障、温暖化政策で再エネをどう位置付けるか。さらに人権問題も指摘される中国への原材料の依存をどう脱却するのかは、国の政策に大きく係ることだ。
地方自治体が、思い付きのように行うことではない。地方自治体がエネルギー安全保障に関係しない温暖化対策に取り組むのであれば、省エネ機器導入など支援できることは多くある。
加えて、将来の廃棄物処理の目途もまだ立っていない(「これから太陽光パネルの大量廃棄時代が始まる」)のであれば、国の政策との整合性も必要になる。エネルギーを取り巻く情勢が大きく変わりつつある状況下での東京都の取り組みはあまりに拙速だろう。
実施まで考える期間は2年間ある。格差拡大につながらない、温暖化問題に寄与する政策を考える時間はまだある。
地球温暖化に異常気象……。気候変動対策が必要なことは論を俟たない。だが、「脱炭素」という誰からも異論の出にくい美しい理念に振り回され、実現に向けた課題やリスクから目を背けてはいないか。世界が急速に「脱炭素」に舵を切る今、資源小国・日本が持つべき視点ととるべき道を提言する。
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