2024年11月24日(日)

未来を拓く貧困対策

2023年1月3日

外国にルーツをもつヤングケアラーの子どもを救う

 第3の事業は、外国語対応が必要な家族に対し、病院や行政手続における通訳派遣等を行う事業である(図表4)。

 22年9月に筆者が執筆した「ヤングケアラー支援へ 知るべき現場とのギャップ」では、家族の世話を担う子ども「ヤングケアラー」が、困窮世帯では4人に1人、生活保護世帯に限れば4割に達しているという調査結果を紹介した。

 困窮世帯のヤングケアラーのなかで、最も大きな割合を占めたのが、「日本語が第一言語ではない家族や障がいのある家族のために通訳をしている」ヤングケアラーである。

 本事業は、こうした政策課題に一定の解決策を提示するものである。国は、「外国籍の親の通訳を、誰が担うべきなのか」という問いかけに対して、病院や行政手続という条件付きではあるにしろ、「公的責任で支えるものだ」という応答をしたことになる。

 しかし、通訳が必要になるのは病院や行政手続だけではない。とりわけ中心的に議論されるべきは、学校における対応だろう。

 今までは、日本語で書かれたプリントを手渡し、各家庭でその内容を理解したうえで準備することを前提に教育システムが構築されてきた。そこでは、日本語が理解できない親の存在や、そこで暮らすヤングケアラーの存在はほとんど無視されてきた。

 本事業の実施を契機に、学校は、「ヤングケアラーのために、なぜ多言語の対応をしないのか」というやっかいな命題を抱えることになる。

 ヤングケアラーの普及啓発のための授業をした際に、「私はヤングケアラーであることがわかった。日本語のプリントは、母は読むことができない。内容を理解し、それを母に伝えることは、私に大きな負担となっている。母国語で書かれたプリントを用意してほしい」と言われたときに、教師は何と答えるのか。

 容易に予測できるのが、「学校にも通訳派遣をしてほしい」という潜在的ニーズが爆発することである。日々のコミュニケーションに苦労しているのは、保護者だけではない。教師にとっても、日々の連絡を通訳してくれる人はありがたい存在だろう。

 「日本語が読めないのは親の責任。教育環境を整えるのは学校の責任」として対策を怠ってきた関係者にとっては、脅威となる事業である。


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