2024年4月25日(木)

経済の常識 VS 政策の非常識

2023年1月15日

子育て費用と親の所得

 子育て費用をどう下げれば良いかと言えば、子育てに補助金を与えるということである。(子育て費用÷親の所得)の式で、児童手当は、子育て費用を下げているのか、親の所得を上げているのかどちらかという疑問が生じるだろうが、分子が小さくなっても、分母が大きくなっても、子育て費用÷親の所得が小さくなることには変わりない。これが小さくなれば、子どもは増えるだろう。

 子どもを持たない人に課税して、子どもを持つ人に支給すれば、財政赤字は増えない。しかし、増税に賛成する人はいないので、そう簡単にはできない。だから検討するとなってしまう訳だ。

 しかし、児童手当を赤字国債で賄っても、世代間の不公平を拡大することにはならない。なぜなら、将来の国債償還が必要な時には、現在の世代は死んでしまい、将来の償還原資を負担するのは生まれてきた子どもたちだからだ。その子供たちは、赤字国債で援助されていたのだから、不公平はないことになる(国債の負担の議論は複雑で、筆者は多くの人と異なる考えを持っている。その一部は本欄「防衛費増 増税か国債発行かよりも中身の議論を急げ」で書ている)。

子育ての本当の費用

 ゼロ歳から大学卒業までの養育費+教育費は、「子育てに必要な費用はいくら?」(ベネッセ 教育情報サイト)によれば、国立大学進学の場合で約2780万円、私大の場合で約2910万円である。子育て費用はざっと3000万円である。

 ここで、仮に児童手当を月3万円にすれば、0歳から18歳まで18年間で3万×12カ月×18年=648万円、高等教育費を無償とすれば、合わせて1000万円が助かる。3分の1の費用が補助されればそれなりの効果があるだろう。

 しかし、子育ての真の費用は、子育ての直接費用に加えて、育児のために母親が仕事を辞めて所得を失うという費用である(もちろん、夫が仕事を辞めても良いが、それについては議論しない)。大卒の女性が、出産育児のために仕事を辞めると2.37億円の所得を失うことになる。これは育児のために働いていない期間の所得2700万円とその後失う年功賃金の2億1000万円を足したものである(原田泰「子供の方程式で何が分かるか」『日本はなぜ貧しい人が多いのか』新潮選書、2009年、による)。

 すなわち、2.4憶円+約3000万円=2.7億円が子育ての費用となる。データ古いが、日本の賃金が上がらず、年功賃金カーブもわずかに下方にシフトしただけなので、最新データで計算し直してもあまり変わらないはずである。

 異次元が何をさすのか分からないが、児童手当(現行、0~3歳未満1.5万円、3~18歳1万円、第3子以降1.5万円)を一人月3万円に上げても、母親が仕事を辞めるコストに比べるとわずかになる。だから、働きながら子育てができるようにする、あるいは、職場に復帰できるようにすることが重要なのだろう。

 また、ジョブ型の雇用になれば、年功賃金が崩れ、ある技能を持った人は年齢にかかわらず同じ賃金で働けるようになる。すなわち、2つ目の「子育てサービスの強化」、3つ目の「働き方改革の推進」が重要となるのだろう。


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