魚がたくさんいるのに禁漁した国、ペルー
2023年6月、ペルーの第1漁期(例年4~8月頃)で、アンチョビー(カタクチイワシ)の自主禁漁が漁業者団体から発表されました。漁獲枠は109万トン。試験操業で漁獲されるカタクチイワシに、未成魚が含まれることが多いため、将来の資源を考えて禁漁にしたのです。
同国政府は、生産者と協議し雇用や収入減への対応を進めるとしています。ペルーは養殖魚の飼料となる魚粉生産で世界の20%強を占める主要生産国のため、養殖業界への影響は少なくありません。
ペルーではわが国より資源管理が進んでいます。アンチョビーには科学的根拠に基づき、TAC(漁獲可能量)が設定されており、かつITQ(譲渡可能漁獲割当)が設定されています。
アンチョビーの資源量は、有名なエルニーニョ現象により、海水温の変化で影響を受けます。 TACやITQによって資源量が増えるわけではありません。しかしながら、これらの制度により、減り始めた資源にかかる漁獲圧が抑制されて、資源は減っても、必ず回復します。
一方で、日本のカタクチイワシ漁では、TACやITQがないどころか、稚魚であるシラスまで獲ります。このため資源管理はほぼ機能していません。
別にシラスを獲ること自体は、資源がサステナブルな状態であれば問題ありません。しかしながら、数量で管理する制度がないとなると話は全く別です。
国はカタクチイワシにもTAC導入をしようとしています。本来は、一刻も早く導入すべきなのです。しかし、TACやITQに対する情報が漁業者の皆さんに提供されてこなかったために、本来なら自分たちのためになる資源管理制度の導入に反対してしまう傾向があります。
こういった誤った知識を、夏休みの宿題を通じて、日本と世界の漁業を比較して気付くきっかけとなればと考えるのです。
ノルウェーも資源量を優先
ノルウェーでも、ペルーと同じくサイズが小さいのが混じるという理由で、イカナゴ漁が23年のシーズン途中で漁が終了しました。漁獲枠の通りに獲ることはできても、将来の資源量を守ることを優先したのです。
漁獲枠6万トンに対し1.6万トンの漁獲と消化率が3割弱しかありません。漁獲枠と漁獲量が同量であることが当たり前のノルウェー漁業では例外的なケースです。
なお漁がシーズン途中で終了しても混乱は起きません。資源管理の重要性が十分理解されているだけでなく、サバ・ニシンをはじめ、他の資源が潤沢であり年間を通じて十分な水揚げ金額が期待できるからです。
ノルウェーでは、日本のようにイカナゴの幼魚を漁獲しません。用途は、養殖のエサに使うフィッシュミール主体です。ペルーのアンチョビーが禁漁になったことで、イカナゴの相場も上がります。しかし、漁業者からは「魚はたくさんいるから獲らせて欲しい!」とはならないのです。