元グーグル中国総裁にして、トップ・エンジェル投資家として知られる李開復(リー・カイフー)は生成AIスタートアップ「Project AI2.0」を創業した。その他にも、フードデリバリー大手メイトゥアンの共同創業者・王慧文は「光年之外」、ポータルサイト・ソウゴウ創業者の王小川は「百川智能」を創業するなど、有力企業家や大手ITのトップ級エンジニアによる創業ラッシュが続いている。
中国では「iPhone時刻」(iPhoneタイム)というキーワードがささやかれている。米アップルのiPhoneによってスマートフォン、モバイル・インターネットという新たな巨大産業が立ち上がったように、生成AIによってまだ手つかずの巨大ビジネスがもたらされるとの意味だ。この千載一遇のチャンスを見逃すわけにはいかないと、野心を煮えたぎらせている人々が無数にいるわけだ。
中国が持つ2つの弱点
もともと中国のAI人材には分厚い蓄積がある。そこにこの熱狂が加われば、すさまじい推進力が生まれることは間違いない。生成AIの分野でも中国は米国と並ぶ大国となる可能性は十二分にありそうだ。
ただし、中国には弱点があることも事実だ。
第一に米国による半導体規制だ。昨年に導入された規制によって、中国企業はAI開発には欠かせない最先端のGPU(グラフィック・プロセッシング・ユニット)、AIチップの購入が禁じられた。
アリババグループなど一部の中国企業は自社でAIチップを設計しているが、製造は台湾TSMCなど海外のファウンドリに依存している。この受託製造も規制対象となっているため、規制に抵触しないよう性能を落とさざるを得ないという。
米NVIDIAは規制に抵触しないよう性能を低下させたA800、H800を中国向けに販売している。対話型AIの開発は1万基ものGPUが必要となるほど、コンピューティングパワーが重要な要素を占める。〝劣化版〟しか入手できないとあっては、フルスペックの製品を購入した他国企業との開発競争で劣位に立たされることは否めない。
この〝劣化版〟すら入手できなくなる可能性が取り沙汰されている。米国政府は半導体規制のさらなる強化を検討しているためだ。NVIDIAなどGPUメーカーは中国ビジネスを失えば損失は大きいため規制強化の断念を訴えているが、対中強硬姿勢が目立つ米政界がどう判断するかは未知数だ。
もう一つの問題は中国国内にある。生成AIでは人手をかけずにテキストや画像、動画を作り出すことができるが、これがフェイクニュースや流言飛語につながりかねないと中国政府は強く警戒している。
8月15日には「生成AIサービス管理暫行辨法」が施行される。生成AI管理を定めた規制法としては世界初だという。