そもそも競争力のない日本の洋上風力
国際再生可能エネルギー機関が発表している洋上風力の発電コスト試算では、日本のコストは英国の約4倍、中国の約2倍だ(図-3)。三菱商事グループの落札価格は予想をかなり下回ったが、欧州との比較では残念ながらまだ高い。
このコスト差は主として自然条件が異なることから生じている。洋上風力の利用率は風況に恵まれる欧州北海では55%、日本では35%とされる。利用率は生み出す発電量につながる。
例えば、70万kWの洋上風力設備の年間発電量は、欧州では約34億kWh、日本では22億kWh。投資額が同じとしても、日本のkWh当たりの発電コストは欧州の1.5倍以上になる。遠浅が続く北海と日本の地形は異なることから、日本の投資額は相対的に大きくなり実際のコスト差はさらに開く。
22億kWhの発電量を基にすると、買取価格が1円上がれば総収入は年間22億円増える。変動費はなくほぼ全て利益増になる。この単位であれば、数千万円は大した金でない感覚になるのだろう。
入札制度を利用しコストを下げる努力は必要だが、自然条件の違いを克服することはできないし、日本の洋上風力設備はこれから浮体式に移っていき、投資額はさらに膨らむ。抑制努力では抑えられないコスト上昇が予想され、電気料金に跳ね返る。
政府は、洋上風力設備製造により出荷額と雇用を増やすことも可能としているが、太陽光、風力発電設備に関する雇用の中心は建設雇用であり、操業に伴う雇用は限定的だ。入札の評価基準では地域への波及効果も大きな割合を占めているが、地元が期待する効果があるだろうか。
設備製造事業が日本で新たに興るだろうか。世界の洋上風力発電設備の約5割は、中国に設置され、残りの大半は欧州諸国にある。大きな設備の製造能力シェアを持つのも中国だ(図-4)。
経済成長に寄与するエネルギー産業は
日本が市場を作れば関連する製造業が発展するストーリーは10年以上前にFITが導入される時にも語られたが、23兆円以上を買取に使った日本の再エネ市場は中国の製造業を助けた結果に終わった。洋上風力が悪夢の再来になるのではないか。
日本が再エネ導入に力を入れたこの10年間、韓国電力、サムスンなどの韓国企業はアラブ首長国連邦(UAE)でAPR1400原発4基の建設を行った。既に3基は稼働を始め、残り1基も稼働が近いとされる。
エネルギー危機を契機に原発新設の検討を始めた欧州諸国からも、韓国製原発検討の意向が示されている。日本の原発事業が停滞している間にお株を奪われた。
日本企業が強く、成長が可能な分野を良く見極めないと、経済も給与も伸びない中でエネルギー価格の負担だけ増えていく。消費者が費用を負担し成長を後押しする産業として洋上風力は相応しいのだろうか。